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<No.28>驕れる者は久からず

  • 周知のようにアメリカの巨大自動車メーカー GMとクライスラーが相次いで倒産し、国有化で再建の道を歩む事になった。我々の若かりし頃 キャデラックやシボレー等は憧れの的で、映画の中にも美男美女のスターがオープンカーに乗って高速道路を疾駆する場面を何度も見たものだ。いわば産業資本主義社会の権化みたいな会社でアメリカの繁栄の象徴でもあったが、今は見る影もない。
  • 全盛の時代は石油がただみたいな安値で、広い国土を超スピードで駆け抜ける車がもてはやされたものだが、石油価格が暴騰し始めたオイルショックの頃から、外見の派手さより燃費効率の改善にもっと目を向けるべきではなかったのか。
  • しかし天下を取ったものは足元が見えなくなるものだ。それは経営者だけでなく従業員や関連事業社も同様だ。アメリカ議会で公的資金融資の依頼説明にビッグ3のトップが自家用専用ジェット機に乗って来たという事で厳しく非難され、結局融資の代償として辞任に追い込まれた。
  • 役員報酬も過去何年も赤字垂れ流しで恐ろしいほどの負債を抱えていたにも拘らず、驚くほどの金額を得ていたようだが、従業員も日本の自動車メーカーの2倍近いサラリーを支給され、健康保険の手厚さも目を見張るほどである。さぞかしこの世の天国を謳歌していた事と思う。
  • 宗教の世界では多神教も一神教も死後の世界の事を、行って来たかのように話してはいるが、死んだ先の事など誰にも実証しようがない。天国も地獄もこの世にあるもので努力次第ではどちらの世界にも行けるだろう。苦労して財産や人望を蓄えれば天国へ、散財を重ね人望を失えば地獄行きが相場だ。
  • BS日テレで「失われた世界の謎」と言う面白い歴史番組をやっているが、古代から現代まで繁栄した国や地域が必ず滅んでいるのは、驕れる人間が富は無尽蔵にあると言う錯覚にとらわれて栄華を極めた結果、色々な形で報復を受けるからであり、また過去に多くを学んでいても当事者になれば他人事のように思って目をそむけるからだ。
  • ところで昨年の下期から金融危機で世界中の経済が大混乱に陥り、わが国でも超優良メーカーのトヨタ自動車が一挙に赤字転落するなど状況が様変わりしたが、その後国家予算の大盤振る舞いや企業努力などでやっと危機的状況から抜け出す局面に来たものの、なおしばらくは踏ん張りどころである。特にGDPの大きな部分を占める個人消費に影響のある雇用や給与などはこれから更に悪化するので慎重な対応が必要だ。
  • 先日ある会合でこんな話が出た。「今若い人たちの雇用状況が特に厳しいが、昔は徴兵制度があり、良し悪しは別として心身共に厳しく鍛えられたものだ。平和な今の日本では高齢化社会になり介護問題が深刻化しつつある。ついては就職していない若者に公の予算で給料を支給しながら、高齢者介護の現場を2~3年経験させる仕組みを作ったらどうか。介護の大変さを身をもって体験すれば、福祉や親子関係の問題、失業対策等多くが解決の方向に進むだろうし、本人の人生観の形成の上にも役立つと思う」と。とても建設的なアイデアだと思った。
  • 然るに世界の経済危機を起したアメリカのビッグバンクが、公的資金の注入を受けて賞与の削減を実施したが、その分を年俸アップで補填すると言うニュースが最近流れてきた。
  • 理由は優秀な人材を確保するためとの事だ。金融関係者は「優秀な人は皆守銭奴」と言う風に考えているのだろうか。わが国でも金融関係の賃金データは公にされていない。理由は世間と差があり過ぎるからと言われる。
  • 新興企業や投資家の中には法外な収入を得て成り上がる人たちがいるが、それは一方で大きなリスクを取っているからで、明日には一文無しと言う事もある世界だから認められるのだ。世の中の仕組みの中枢にある公務員を始めとする組織人がそんな考えを持っているとしたら国家は成立しない。
  • 嘗てソロモンの栄華を誇ったユダヤ王国が滅亡した後、2000年間世界を流浪し虐げられ、当時は汚い仕事と蔑げすまれていた金融の仕事で次第に力をつけ、やっと60年前に国の形が取り戻せたが、宿敵イスラム世界との厳しい戦いは終わっていない。現代の拝金主義者は、ユダヤ人が血みどろの生活の中から獲得したものを、つまみ食いしているようなものだ。
  • 「驕れるものは久からず」を誰しも肝に銘じておくことが今一番肝要なのではないか。