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<No.20>四国遍路一人歩き

  • 昨年1月に家内が亡くなってしばらく気持ちに空白状態が続いていたが、その年の秋にたまたまNHKの土曜ドラマ「ウォーカーズ」を見た時から四国のお遍路に興味を持った。
  • それでもまだぐずぐずしていたら、会社の後輩のH氏が退職を機会にお遍路をしたいというメッセージがあり、これに触発されて4月28日からまず徳島県を試しに11日かけてまわり、次いで5月24日から22日間で高知県と愛媛県松山市内の53番札所円明寺まで参拝を終えてきた。残り35寺は9月になって行く予定にしている。
  • 四国一周約1200Kmを歩きで通し打ちすると平均45日前後かかるそうだが、歩いて回るのが原則である以上はまず体力の向上。最低7~8Kgの荷物を背負い、1日10時間、時には700メートルを越える山坂を上り下りするので、生半可の事では歩き通せない。
  • 次に2ヶ月近い暇な時間の確保。仕事や子育てに多忙な青年期、壮年期ではなかなか難しいが、区切り打ちなら若い人も結構できる。しかし現実には60歳代の人が歩き遍路の半分を占めているそうである。
  • そして資金も宿泊費用を中心に50万円くらい必要となる。遍路宿なら1泊2食で6000円程度。宿坊やホテルでは2000円程度高い。その他費用はたいした額ではないが、靴だけは足にフィットする高級なものが必要だ。
  • さらに少なくとも各札所の本堂に1枚「般若心経」の写経を収めるのが原則だからこれの準備がまた大変だ。1枚書き上げるのに慣れた人で1時間、初心者に近い人なら1.5時間はかかる。
  • もう1つ、長期の旅だから行き当たりばったりと言うわけにもいかず、事前におおよその遍路計画を建てておく必要がある。インターネットや関係書籍、経験者の話などを聞きながら詰めていくのだが、区切り打ちならまだしも88ヶ所を通し打ちするとなるとこの仕事も小手先では行かない。
  • 以上は歩き遍路の場合だが、車を利用したり、遍路ツアーに参加して札所でのお経以外は全く人任せの観光に近い遍路が全30万人中の99%。残り1%の3000人~5000人が歩き遍路と推測されている。 
  • 遍路する人たちの目的は様々だが、こうした準備が一応完了していざ出発となる。88の各寺では本堂とその脇にある大師堂で灯明や線香を上げ、更に「般若心経」などのお経を唱え、終わると納経所で帳面や法衣、掛け軸などに立派な証明印をもらうのが一連の流れである。納経所が朝7時から夕方5時までなので遍路もそれにあわせた行動をとることになり、民宿や宿坊などもこれに準じた受け入れ態勢を取っている。
  • 実際行って見ると予想外の事が次々と起きる。まず遍路用の地図を見ているにも拘らず道に迷うことがしばしばあり、これが結構負担になる。
  • 国道を歩く時は、足元は平坦だが車が勢いよくすぐ横を走りぬけるので怖いし、トンネルの中では轟音が耳を劈くのでなおさらだ。遍路専用道は山道や狭い道が多いので歩きにくく足の筋肉の痛みがひろがり易い。蛇やミミズなどにもちょくちょくお目にかかる。雨が降ると崩れて通れない危険な山道もしょっちゅうだ。
  • 反面、緑は多いし空気は綺麗だし、鶯やカッコウなど美しい鳥の囀りも間近に聞けるなどのメリットもある。
  • 一番の苦痛はなんといっても暑さ。気温が30度を越えると道路上は照り返しで5度以上も高いので汗が滝のごとく出る。
  • 次に山の登り坂。体験的に言うと登りの角度が5度以下ならたいした負担にはならないが、10度を超えるとかなりきつい。15度以上になると黙ってうつむいて、ゆっくりただひたすら上に向って歩み続けると言う感じだ。
  • 大風もつらい。室戸岬と足摺岬でいずれも2時間程度暴風雨に遭ったが、雨より風の方がつらい。(真冬だとまた違う印象を持つかも知れないが・・・)
  • 高知県では1日平均32~33Km歩いた。最高は足摺岬1周の40Km。さすがに足が棒になったが、翌日も山道を含む30Kmを歩き通せたのは不思議な感じがする。
  • そんな状況だから、食事は日頃の2倍、飲み物は3倍くらい摂取し、睡眠は8時間以上とっていたが、体重はなんと2Kgほどやせてべルトの穴が1個足りなくなった。これこそ仏の現世利益だと思う。
  • 以上は遍路の一般常識ととりあえずの印象だが、次回は88箇所を結願した結果の感想を少し詳しく書こうと思っている。