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<No.72>さようなら「平成」イチロー選手も引退

平成から令和へ

  • 今日4月1日に新しい元号が菅官房長官から発表された。いよいよ31年間続いた平成時代が幕を下ろし、5月1日から令和時代が始まる。西暦645年の政変(大化の改新)後に「大化」という元号が発布され、以後1400年近くにわたり90代(125代の天皇のうち元号のなかった前半の35代を除く)で248の元号が使われてきた。
  • もともと元号は中国前漢の武帝の時に始まり、その後日本もこれを見習って使い始めたものだが、日本の元号は天皇の即位時ばかりでなく、瑞称や天変地異から人心を一新するためなど恣意的に変更されてきた。しかし明治維新後の「大日本帝国憲法」の下で、天皇は現人神となり、元号は天皇の即位から崩御まで継続する一世一元制に改められた。その後敗戦で「日本国憲法」に代わり、人間天皇になっても昭和天皇の崩御の時はそれまで通りの手順で行われ、当時の小渕官房長官が平成の文字を書いた額を手に持って、新時代のお披露目をしたことは記憶に新しい。
  • 昭和17,18年に生まれた我々同期生は今回の新元号により3時代を経験することになる。
  • 元号を使用している国は本家の中国ではとっくに取りやめており、現在は世界で日本だけが唯一使用しているが、これからも継続する。なぜなら新憲法では元号に関する規定がなかったので、昭和天皇が崩御されれば元号も使われなくなる可能性はあったようだが、昭和54年に元号法が新規に制定され今後も継続して使われることになった。ただし一世一元が前提だったので、今上天皇の生前退位という発想は憲法上、政治上かなり大きな問題ではあった。しかし先般今上天皇みずから「体力の衰えにより天皇の公務に影響が出かねない。ひいては国家国民に多大な迷惑をかけるのを回避するために生前退位をしたい」との発言は日本国民の大多数の賛同を得、そして1月後には無事実現しそうで、代わって現皇太子殿下が新しい天皇に即位され、その後任の皇位継承も普く合意できたことは、望ましい結果であった。
  • こうした継承の考え方は、政治や経済文化など諸方面で活躍されている有意な人材の後任人事の場合でも同様で、自分の権勢をいつまでも誇示したいという考え方は老害以外の何物でもない事を肝に銘ずべきであろう。適切な時期に後身に道を譲り、その成長をバックアップする事こそ高齢化社会を迎えた我々世代のあるべき姿だと思う。

 

イチロー選手の引退

  • ところで、さる3月21日に日本人大リーガーのイチロー選手が引退を発表した。45歳である。彼がプロ野球のみならずメジャーリーグに残した不滅の足跡は、数々の大記録だけではない。一言でいえば「ベースボールに革命を起こした」ということだ。
  • 20世紀の半ば頃にレッドソックスとヤンキースで投打にわたって大活躍し、数々のホームラン記録などで、今でも球聖といわれ多くのアメリカ野球ファンに愛されているベーブルースが作り上げた一発の魅力の野球に対し、打つ、守る、走る、の3拍子揃って細かくゲームをつくり上げる本来の野球の魅力を、本場のアメリカファンにも再認識させた功績は筆舌に尽くし難い。
  • 彼は引退会見の席でこんなことを言っている。
    • 「新しい世界に挑戦することは勇気がいる。成功すると思うからやってみたい、できないから行かないという判断では後悔を生む。できると思うから挑戦するのではなく、やりたいと思うから挑戦する。そうすればどんな結果でも後悔しない。」と。
  • 更に又こうも語っている。
    • 「人より頑張る、というのでなく、自分の中の秤を使い、自分の限界を見ながら、少しずつ自分を超えていった結果が独自の技術を編み出した。」と。
  • 彼独特の難解な言い回しではあるが中々蘊蓄のある発言である。彼はプロ野球選手としては決して恵まれた素質があったとはいえない。現に28年前のドラフト会議ではオリックスに4順目で指名を受けたことが当時の客観的評価である。同期には小笠原、松中、三浦など有名になった選手もいたが、実績ではイチロー選手と比較するレベルではない。
  • 大リーグでもベーブルースやハンクアーロンのような長距離打者とは比較が難しいが、最多安打記録を持つピート・ローズやヤンキースで活躍したD・ジーターのような安打中心のチョー有名打者と比較しても何ら遜色はなかろう。
  • まさに日本を代表する偉大な野球選手であり、いずれ国民栄誉賞や5年後の米国の野球殿堂入りも今から約束されている。彼の野球人生の28年間は平成そのものであり、平成を代表する人材である。
  • 平成の球聖と呼んでもいいだろう。本人は固辞しているが、今後もコーチや監督として日本の野球を牽引してほしい人である。
  • 新しい酒は新しい革袋に昨年大谷選手が日本ハムからエンジェルスへ移籍し、投打の二刀流で話題をさらっているが、再びメジャー球界に革命をもたらす日本人が誕生するのか、すでにその影響が選手登録の制度変更や、二刀流志願選手の増加という形で表れている。
  • イチロー選手はこの点についても「1シーズンで投打を掛け持つより、シーズン毎に投打を交代する方が長続きするのでは」との考えを語っている。昨年大谷選手は前半戦でひじを痛め、投をあきらめて打に専念し、そして驚きの成績を残して新人王を獲得した。
  • 今年はひじの手術の影響で打に専念するが来年以降はどうするのか、こうした状況にイチロー選手は自分を超える可能性がある人材を見出したことで、引き際に未練が無くなったのかもしれない。
  • 近年野球に限らずあらゆるスポーツでデータの収集、解析が盛んになり、その内容のタイムリーな提供で競技の面白さが一段と増してきた。AI化があらゆる分野に広まってきて無限の可能性を感じる。すでに囲碁、将棋はもちろん医療や新素材の開発などなど、私たち古い世代の人には手に負えない分野でAIの活躍の場が続々誕生しつつある。新し時代は新しい人たちで大いに頑張ってほしいものである。

 

以上

 

「会長メッセージ」もこの辺が筆の納め時

  • 私がこの「会長メッセージ」を書き始めたのが2002年であり、今回で足掛け18年、70回にもなった。初めは軽いエッセーのようなつもりで書いていたが、07年、20回目の四国お遍路の体験談以降やや趣が変わってきたように思う。
  • 書く前提として、話題はできるだけ広く、主張はわかりやすく、そして「天下第一関」の誇りを汚さない程度のレベルを保つ事を念頭に置いて書いてきたつもりだが、実際には反省多々有りである。
  • 近年、齢を重ねて筆を置く時期を模索してはいたが、この時代が代わる機会に「会長メッセージ」を終えることがベストな選択であると感じ、今回を以て最後のメッセージとしたい。

 

長らくささやかな話題にお付き合いいただき、ありがとうございました。

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コメント: 1
  • #1

    奥山虎勇 (木曜日, 23 5月 2019 00:28)

    大変深い蘊蓄のあるエッセイを読ませていただきました。長年の歴史を踏まえた、それぞれの時代を反映して著されたものは、後世の礎になると思います。是非まとめて出版されては如何でしょうか、ものを考えない世代の人が多くなって来たような時に、是非一石を投じてください。