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<No.71>人生の第4コーナーを終えて

これまでの過去を振り返える

  • 昨年は数え年の77歳になり、出身校である下関西高の同期生が亀山八幡宮で「喜寿の会」を開催してくれた。50人を超える人たちが元気な顔を見せたが、古希の会や還暦の会に比べ参加者の数は減少し、顔や姿もずいぶん年寄りじみてきた。また諸情報から推察して同期生300人のうちすでに2~3割の仲間が他界したと思われる。
  • 卒業時の日本の人口は1億人にも満たなかったが、今では減少数が加速しているとはいえ、まだ1億2千万人を超えている。しかも医療の高度化や保険制度の充実で寿命はますます伸び、男性は81歳、女性は87歳と世界でも指折りの長寿国となった。企業で働く人たちの定年も55歳から65歳そして70歳へと伸びている。100歳を越える高齢者はすでに7万人(うち女性が88%)に迫り、2040年には30万人を超える勢いだ。
  • 一方少子化も進み、働く人の数は減少一途でこれを補うためには女性の活用や、海外からの働き手の受け入れが不可欠になっている。
  • また高度成長期に建設が進んだインフラの多くはすでに陳腐化劣化が激しく、この修理建て替えを早期に実施しないと経済がますます停滞してしまう。アベノミクスでインフレ刺激策を実行してきたが大した効果は上がっていない。デフレマインドが日本全体を覆い尽くしているようだ。
  • 平成時代の初めに日経平均株価が3万9千円の最高値をつけたが、直後の不動産バブル崩壊で5分の1まで低下し、その後多少回復はしたが、いまだに最高値の6割強しか戻らない株式市場は先進諸国や新興諸国にも見当たらない。

 

ロストジェネ世代とゆとり教育世代

  • バブル崩壊後「平成の失われた20年」間に就職した世代をロストジェネレーションと呼ぶそうだが、就職先がほとんどなかったため職にありつけた人は、職場で自ら仕事を探し、上司の指導を受けることもなく懸命に働いてきたという。
  • 一方来年度新卒の求人倍率は1.88倍と空前の活況であり、またコンプライアンス全盛の時代になって、ちょっと厳しくするとすぐやめるとか、場合によればパワハラ、セクハラと訴えられかねない環境になっている。
  • 後者の世代はいわゆる「ゆとり教育」で育った人たちである。1995年生まれの人を中心に前後各9年間に生まれた人は「小、中学校」でこの洗礼を受けてきた。それまでの詰め込み教育の悪影響への反省から、土曜日は完全休日となり、勉強の内容は3割削減され、他方自主性を育てる「総合」科目が大きく増えた。しかしゆとり教育は学力の低下が著しいと親や教育関係者の猛反発を買い、9年で挫折し、土休以外はほぼ従来型の教育に戻った。
  • 今の20歳台の働き手は、期間の長短を問わずこのゆとり教育で育った人たちであり、今年の新卒はフルにこの教育受けた人である。
  • 以前にこのメッセージで京都市の「堀川高校の奇跡」を書いたが、ちょうど同じ時期にゆとり教育と同じ趣旨で高校の教育改革を実践しこちらは大きな成果を上げている。下関西高も2年前これにならって新制度を導入し、2020年に新課程の卒業生が誕生する。
  • しかしスポーツ分野でフィギュアの羽生選手や米大リーグの大谷選手など、けた外れの人材が活躍しているが、親や上司、関係者等のこの世代に対する評価は決して高くない。
  • ゆえにロストジェネが世の中の中枢を占めるようになったこれからの日本は、こうした世代間の大きなギャップを抱えつつ、仕事にミスは許されないため、リスクを取って革新的な事業に取り組む気風がますます弱まり、少子高齢化と相まって日本経済は放っておくと際限ない深みにはまりそうだ。
  • 国や地方が抱える借金の1100兆円は誰かがいつかは負担せねばならないが、日本人や日本企業の所有する資産の半分はすでに先食いされているのと同じことなので、今後極東アジアに戦乱が起こったり、ハイパーインフレが起こったりすれば生活も経済も一気に破壊される。しかし今すぐ大増税による解決策も庶民には中々厳しい。

 

閑話休題

命って何だろう?

  • 誰もが子供のころから抱く大きな命題である。
  • 近年、人の命や体の仕組み、その成長と死などの分野で科学的研究が非常に進んできた。
  • 2004年にNHKの番組「地球大進化46億年」で、地球のすさまじい変遷と人類進化の旅を見た。その内容が、小惑星の衝突、火山の大爆発、全球凍結、気候の大変動など恐ろしい現象が何度も起き、その都度生物が大量絶滅したということで驚いた記憶があるが、最近、命に着目した伊藤明夫氏の著作「40億年、いのちの旅」や科学雑誌「ニュートン」などを改めて読んでみた。
  • それらによると命は40億年前に誕生し、その後何度も大量絶滅の危機を経験しながら、その都度生物は生き残り、且進化を続けてきた。5億年前のカンブリア紀から個体の大型生物が誕生しそのほとんどは絶滅したが、それでも新たに命をつなぎ、人の祖先である哺乳類は、恐竜の活躍する中生代をひっそりと生き続けてきた。
  • 6600万年前に小惑星がユカタン半島に衝突した時の大量絶滅時でもしぶとく生き残り、ついに人間は700万年前アフリカでチンパンジー(類人猿)から枝分かれし、その後猿人、原人、旧人そして現生人類のホモ・サピエンス(賢い人の意)が20万年前に東アフリカで誕生し今日に至っている。他の人種はすべて絶滅した。そしてサピエンスの一部が6万年前にアフリカを出て世界中に広がり、日本には寒冷期で大陸と地続きの時の4~2万年前に北方、南方、及び朝鮮半島経由で住み着いたそうである。
  • 地球の誕生から今日まで46億年経過しているが、これを1年と仮定すると人類が誕生した700万年前は12月31日午前10時過ぎ、ホモ・サピエンスの登場は午後11時40分そして我々の人生100年はわずかに0.6秒に過ぎない計算になるそうである。これでは命について語る意欲も失せるが、もう少し続けよう。
  • 命についての定義は古代ギリシャの頃からすでに議論されているが、現代の科学では次の3点が生物であることの必須条件である。
    1.外界と区別する境界を持っている。(細胞膜に相当)
    2.自分と同じ子孫を作りふやすことができる。
    3.外から取り入れた物質で自分の体をつくり、活動するエネルギーを得ることができる。
  • この命が何時どのようにして誕生したのかは諸説あってまだ定説がないものの、宗教で「神が命を作りたもうた」という説は科学的には受け入れ難い。

 

人生の終わりを悔いなく締めくくるには

  • しかしかくしてこの世に生を受けた以上、人としての命を全うしたいし、実際にできたかとなると千差万別であろう。
  • 命が消滅する死についてこの世で悪いことをすると地獄につれていかれて怖い目に遭うと、特に仏教を信じる日本人は子供のころから先祖代々教わってきたが、成人してからでも言霊(口に出すとほんとにそうなる)の所為で余り触れたくない話題であり、特に若くして不慮の事故や難病で亡くなった人の話題は常に暗くなりがちである。
  • しかし老いた今は必ずしもそうではない。家族や友人知人の多くが亡くなり、さびしい思いが募ることのほかに、死が近くなって「冥土に財産は持っていけない」ことが実感されるようになって、人生観がだんだん変ってきたような気がする。
  • 今後命の定義がもう少しすっきり決められ、命の誕生が科学的に明確になり、医学のさらなる発展によりこの世から病気やけがが無くなり、さらにAI、ロボットやエネルギーの有効活用などで将来的に快適な生活が約束され、生きる時間は多少伸びようとも、自分の命は遅かれ早かれ尽きるものである。
  • これは20億年前に生物が進化の過程で、環境激変の折に生き延びる可能性の高い有性生殖を選択し地球全体に広まったことから、生物にとって死は避けて通れない宿命となったからであろう。
  • だからこの世の苦しさ厳しさを避けて、死後の世界に満足を得るなど空想にすぎないが、「信じる者は救われる」の例もあるように、何かを信じて生きることは精神的に楽になるので、肉体の健康や精神衛生上も悪いことではない。否、現代病の癌や成人病の多くはストレスが原因だからその対応策として大いに効果があるはずだ。
  • 現在世界人口は現在76億人といわれるが、そのうち40億人を超える人々がキリスト教、イスラム教、仏教など様々な宗教に帰依している。別にどの宗教でも構わないが、心寂しい人や病気で辛い毎日を送っている人は「信じる者は救われる」ことを本気で実践してみると、案外素晴らしい終末人生を送れそうである。
  • 私の場合は諸事情があって60歳で職場の築地魚市場を離れ、その後に家内の闘病生活などで約5年間人生の最悪期をすごしたと思っていたが、今振り返るに、そんな時期があったからこそ、少しでも生きる環境を変えようと思い立ち、四国八十八か所を46日で歩き遍路し結願した。これはかなり厳しい修業だったが、すべてを失ったからこそ何でもやってみようという気になり、またそれが縁で書道を始め、今では毎日展入賞などの結果につながったと思われる。
  • これから豊かで充実した終末人生を全うするために、病気や体力の衰えてきた今日、個々人が自分なりに行く末を考え行動する時だろう。