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<No.68>朝鮮半島の情勢変化に思うこと

米朝首脳会談は評価すべき

  • 去る612日、シンガポールで世界が注視する中、初めての米朝首脳会談が行われ、北朝鮮は非核化しアメリカは北の敵視政策を止める旨の共同宣言を世界に発信した。
  • 昨年10月頃まではトランプ大統領と金委員長との罵り合いがエスカレートし、実際に度重なる核実験やミサイルの発射で韓国のみならず日本の上空にも、更にはアメリカ本土近海にも着弾し、核戦争の脅威が高まっていたのに比べ、今やその懸念は一時的にせよ大幅に緩和された。眞に喜ばしいことだ。
  • これから更に時間をかけて非核化の具体的なスケジュールや査察方式の検討、北への軍事的圧力の軽減や経済制裁の解除、更には日本人拉致被害者の帰国交渉など懸案は山ほどあるが、関係国は胸襟を開き平和に向かって粛々と話し合いを進めて欲しい。極東で核戦争が勃発することは世界中の誰もが望んでいないのだから。 
  • しかしこの米朝首脳会談の結果を日米のマスコミや野党は必ずしも高く評価していない。
  • その多くは非核化の具体的スケジュールが宣言に書かれておらず、今までアメリカは散々騙されてきた北朝鮮に譲歩し過ぎだ。また自国民を長きにわたり酷い生活を強い、多くの罪もない側近や反体制の考えの人々を惨殺してきた人間を尊敬するなど、大統領として発言すべきことではない、などなどである。
  • 「ではあなたが大統領なら朝鮮半島の非核化をどうしたいのか。それは実際に可能なのか」

具体的な進展には時間が当然時間がかかる

  • 先のNHKスペシャルによれば、金委員長は若い頃スイスに留学し西欧の先進文明を真近で学んでおり、先代の金正日委員長の死去で若くして3代目を引き継いだ時の就任演説では、軍事態勢の維持とは別に国民経済の安定向上を重点施策として掲げたそうである。
  • 政権を完全に掌握し国内体制を引き続き安定させるにはかなりの荒療治が必要なのは後進国の政治の常だが、北を取りまく緊張状態の中で外国からの脅威だけでなく下手をすれば国内からも命を常に狙われかねない状況ではやむをえない面もあろう。
  • それでも昨年末から掌を返したように平昌五輪への参加や半島の緊張緩和、金体制の安全保障を約束するなら核保有は無意味、そして朝鮮戦争の終結宣言まで話は及んだが、このシナリオも今年病死した金委員長の若い頃からの側近が1年も前に報告書に残しており、すでに関係友好国には流れていたと言う。
  • トランプ大統領はこうした情報に加え、中東紛争のシリア政府軍への爆撃をしたり、アフガンの反政府軍を大型爆弾で攻撃したり、中国への圧力を更に強めたりして北を追い込み、ついに朝鮮半島の平和を目指す首脳会談までもってきた手腕は大したものである。
  • 今までの大統領は北が非核化を約束したので経済援助も行ったが都度約束を破られてきた。だから信用できない国だと言う。しかし米朝首脳会談の要望を無視し続けた結果が、無視できない核保有とミサイルの開発につながり極東諸国のみならず米中にも大きな脅威と
  • なってしまったのは明白である。この責任は誰にあるのか。
  • トランプ大統領が「もっと易しい交渉をしたかった」というのも当然である。
  • 今回の宣言を完全実施するには相当の時間と資金とスタッフが必要だろうが、何としても実現して欲しい。むしろ問題はトランプ大統領が再選されなかった場合この方針にどんな変化が起こるのか心配である。
  • 韓国の世論は文大統領の緊張緩和政策に諸手を挙げて賛成で、地方選挙も与党が圧勝したようである。要するに戦争による被害等誰も受けたくないのは当たり前だが、軍事産業に携わる人、宗教思想の異なる人、あるいは経済的に困窮している人たちが起こす国際紛争は話し合いだけでは必ずしも解決せず、多くの戦争が勃発し莫大な人命や財産が失われてきたことは紛れもない事実である。
  • 現在も世界の各地で国際紛争や内戦が続いているが、こうした愚かな行為を止め、話し合いで平和が実現する可能性があるのなら、大いに結構なことだ。例え相手が人道的に問題のある人物にしても国家を代表する人ならとやかく言っても始まらない。
  • さもなければ嘗ての毛沢東やスターリンのように多くの同胞を死に追いやった人や、深い関係にある人達との国交回復の話し合いすら許されなかったことになる。彼らは現代中国や、旧ソ連の今でも英雄である。金委員長も国内では朝鮮動乱から北朝鮮を守った英雄の末裔である。
  • 一方17世紀初めにヨーロッパから新天地を求めて移住してきた人達が、多くの先住民を殺害し土地を略奪した事実。150年後にイギリスから独立したアメリカが、その責任を十分果たしもせず、人権問題を盾に平和交渉を進めるトランプ大統領を非難するのはいかがなものか。

 トランプ大統領の高い公約実行力

  • 選挙期間中トランプ氏の主張はエキセントリックに思えたので泡沫候補の一人に過ぎないとみなされていたが、結果は下馬評を覆して当選した。少なくとも投票者の50%を超える人達が彼の主張を支持したのである。
  • 当選後は選挙公約を着実に実行している。それが世界の国々や国内の野党やマスコミにどんなに批判されようとも、更には閣僚の反対には首を挿げ替えてでも、ものともせずに実施に移している。
  • 日本では公約は選挙の票集めのためで本気度を反映していないとか、その反省の上に立ってマニフェストにして項目の具体的な要領等も発表するようになったが、必ずしも期待通りにはなっていない。
  • アメリカも事情は同じようだが、トランプ政権はこれまでと違い無理は承知で公約をとりあえず実行する。そして状況を見ながら修正を加えつつアメリカファーストを実現すると言う手法のように思える。例えば
    • 前政権が長年かけて締結したTPP協定を発効もしないうちから脱退。
    • メキシコ、カナダとの貿易協定の見直し。
    • 法人税を現在の35%→20%へ15%削減。
    • 鉄鋼、アルミの25%輸入関税賦課。特に中国との貿易不均衡の是正に強権を発動。
    • メキシコからの密入国者を防ぐ高層鉄条網建設工事に着手。
    • 医療保険のオバマケアの見直し。
    • 環境問題の国際的取り組みであるパリ協定からの離脱。
    • イスラエルのアメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移転。
    • 各国から密入国した人々の摘発と強制送還等など、
  • 一見無謀のように思われる政策をいとも簡単に決断実行しているように見える。
  • 当然関係諸国や国民とトラブルを起こしているが、政権の意図をよく聞いてみると、思いつきや好き嫌いでやっているのでない。いずれもアメリカや国民にとっては好ましくないことで、しかも法律があるにも拘わらず平気で破られ、またその状況を人道主義や地域経済にとって無視できない事情もあって黙認しているとか、前の政権が始めたのに相手国の反発にあってそのまま放置しているものを、法律に則って是正しようとしているのがほとんどである。
  • しかも公約に掲げて国民の承認を得ていることであり、むしろ実行しなかったらアメリカ国民を欺く事になる。
  • この方法は法治国家における民主主義の基本ルールではないのか。法律よりも今のままの方が良いと思うのなら現行の法律を変更する努力をすべきで、見て見ぬふりをすることは法治国家の有るべき姿ではない。
  • しかも大統領は状況を見て落とし所を模索しながら妥協もする。まさに一流ビジネスマンのやり方をそのまま政治の世界に持ち込んだ見事なディールで世界中を驚かせ続けている。
  • 大統領選挙の期間中に民主党や世界のマスコミは異口同音に「トランプ氏が当選したら世界はカオスになる」と危険を煽り続けてきたが、結果は逆でアメリカ経済は発展し続け、日本もその利益を享受している。私もビジネスマンだったので彼の手法をよく理解できる。
  • 現状の問題を放置せず、少しでもプラスになることはリスクを恐れず挑戦する姿勢は眞に素晴らしい。

批判する人へ。あなたならどうするのか?

  • 政治の要諦は経済の安定にあることは古今東西を通じて明らかであり、この基本理念を崩さない限り政治的なトラブルは大きくならない。
  • 口先だけの批判を実しやかにする一方で「ではあなたならどうするの?」と聞かれてまともな返答もできない評論家の主張や、コンプライアンスを盾にして現状の問題点を何も変えようとしない御仁が増え続ける日本も、トランプ大統領の行動を少しは再評価すべきではないだろうか。