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<No.67>平昌オリンピックの成果

 朝鮮半島の平和は本物か?

  • 27日から韓国の平昌で17日間にわたって開催された第23回冬季五輪が無事終了した。
  • 昨年来朝鮮半島の政治的緊迫が一触即発状況にまで達し、五輪が本当に開催できるのかと世界中が心配していたが、南北朝鮮トップ間及び関係諸国の努力で何とか無事に開催できたことは御同慶の至りである。
  • 古代ギリシャの五輪でも開催中に参加国は紛争を一時中止すると言う暗黙の合意があったが、近代五輪で図らずもその理想が実現された事になる。これがきっかけとなり朝鮮半島で非核化の平和が達成されれば望外の喜びだが、過去の経緯を考えるとそう簡単に実現できるとも思えない。とりあえず5月に決まった米国、北朝鮮首脳会談を注目しよう。
  • しかしこうしたビッグイベントが主催の韓国だけでなく、敵対する北朝鮮国民にも世界の現実に目を向ける事になったのは大きな進歩である。10年前にこのメッセージでも述べたように、近い将来関係諸国の努力で平壌オリンピックが実現するようになったら、極東アジアの安全保障問題は大きく前進する事になろう。

日本選手が大活躍

  • ところで平昌大会は世界から92カ国から約3000人が参加、全7競技102種目が実施された。日本は145人の選手団の大活躍で、金メダル4個、銀メダル5個、銅メダル4個、合計13個と冬季五輪としては1998年の長野開催の10個を上回る最高の成績を上げ、2年後の東京五輪への大きな弾みになった。
  • 中でも女子スピードスケートや男子フィギュアスケートの活躍が出色だが、カーリング女子の活躍も見事だった。金メダルを獲得した小平選手は500メートルで五輪2連覇の韓国の強豪イ・サンファ選手を破りこの種目で25連勝を記録(後に世界スプリント選手権で2連勝し27連勝に伸ばす)、1000メートルでも銀メダルを獲得した。しかも日本選手団の主将も務め、日本選手大活躍の責任を十二分に果たしたと言えるだろう。
  • 次いで女子のパシュートも素晴らしかった。3人が纏まって滑りトラックを6周して最後の選手のゴールが早い方が勝つ競技だが、決勝で破ったオランダの3選手は中長距離でいずれも金メダルなどを獲得した選手であり、常識的には50メートルくらいの差で負けてもおかしくない状況だった。しかしオランダからコーチを招き、選手団のパフォーマンスの科学的分析や300日に及ぶ合宿など厳しい訓練を重ねて大逆転の勝利を飾った事は、日本のスポーツの大きな特色として今後に多くの競技で生かされる事だろう。
  • 中でも高木美穂選手はチームの中心として頑張ったが、1500メートルで銀メダル、1000メートルでも銅メダルの大活躍だった(五輪後の世界選手権では日本選手初の総合チャンピオン、更にワールドカップの総合チャンピオンにも輝いた。)
  • 更に今回新種目の女子マススタートでもお姉さんの高木菜那選手が、小柄な体にも拘わらず、大きなオランダの選手を最終周の最後のコーナーを回る時の、外側へふくらむ一瞬の隙をついて差し切った痛快な勝利は、強い早いだけでは勝てないこの競技の面白さを世界に発信した。菜那選手は1つの五輪で2個の金メダルを獲得した初めての日本女子選手という栄光も手に入れた。
  • 世界の五輪観戦者に大きな感動を与えた日本選手でもう一人特筆すべきは、男子フィギュアシングルの羽生結弦選手だろう。男子では66年ぶりの2連覇という凄い記録だが、3月末開催の世界選手権を欠場するほど怪我は完治していない状況にも拘わらず、ほぼ完ぺきな演技を行い前回の自身の失敗演技にリベンジしたと言う強い達成感に、多くの人々が心揺さぶられる物があった。出身の仙台を始め3.11の大震災に遭われた人達も大いに勇気付けられたことだろう。国民栄誉賞にも納得である。
  • このほかにも銀や銅メダルを獲得した選手たちは皆大変な努力をしてきたように思う。中でも女子カーリングで初めて銅メダルを勝ち取ったLS北見チームの5人はこのマイナースポーツを一躍メジャーにしただけでなくで、人口の少ない極寒の北見という町の名前を日本中に知らしめ功績は眞に大きい。
  • 報告会で市長がうれしさのあまり涙で言葉にならないほど感激したのも宜なるかなである。この高揚が4年に1回の一過性でなく子供たちから大人まで人気のスポーツとして広まる事が選手ならずとも期待される。

スポーツの意義とは

  • 最近のスポーツ選手は大きな大会で好成績をあげた時のインタビューで、本人の喜びに続けて家族や指導者そして応援してくれている多くの人達への感謝の言葉を必ずと言って良いほど口にするようになった。
  • 我々が若い頃は本人の努力の成果を自身もマスコミも讃えていたが、今は本人の努力だけではなかなか良い結果は得難い。優秀な設備や優れたコーチ、練習や遠征の資金などに加え家族など周りの応援があってこそメダルが確保できる状況に変わってきた。
  • つまりアマチュアではなくプロフェッショナル化がどのスポーツでも常態化しているが、これは決して悪いことではない。経済でも芸術でも勝つためには総合力が必要な時代なのだ。この事を理解していないと、例えメジャースポーツでも精神論で士気を鼓舞するだけでは成果は挙がらない。
  • 今回の五輪でも良い結果ばかりではない。冬季五輪の華であるアルペンやバイアスロン、そり競技、ショートトラックなど「参加する事に意義がある」という100年前のオリンピック憲章の意義をそのまま継続している種目もあるが、もはやそれでは国民は納得しない。
  • 7年前の東日本大震災で多くの家族や隣人を亡くし、設備や道路などが破壊され、呆然自失の中で選手たちはスポーツを継続することの意味を真剣に考え、苦悩して出した結論は「勝つことによって多くの被災者に生きる勇気を与える」と言うことだったのではないか。だから練習にも真剣に取り組み、チームワークをより大事にするようになった成果が今回の好成績の遠因だと思っている。
  • 最近大相撲や女子レスリングなどで勝負以前のトラブルが発生しているが、コンプライアンスを徹底する結果、スポーツが衰退するようなことがあっては何にもならない。来年はラグビーワールドカップが日本で初めて実施され、2年後には東京オリンピックが開催されるが、日本国民として素晴らしい成果が得られることを心から期待している。