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<No.64>混迷の度を極める豊洲築地市場移転

扇動政治家?小池東京都知事

  • 昨年夏の都知事選挙で小池百合子氏が初の女性知事に当選してから、築地市場の豊洲新市場への移転計画は大きく狂ってしまった。すでにこのメッセージでも連続3回取り上げてその経過や問題点を詳細に述べてきたが、事態はますます混迷度を深め、どこに着地するかさえ分からない状況にある。
  • 小池知事が掲げる「都民ファースト」「都政の可視化」「東京大改革」等マスコミや大衆受けのするキャッチフレーズが多くの都民のハートを捉え、その勢いは7月2日の都議会議員選挙で過半数を制すると予測されている。

築地市場移転を「問題化」膨大な税金の無駄遣いを実行

  • 今回の選挙は小池都政全体の功罪を問う機会だから、築地移転の問題が都民にどう評価されるのかわからないが、大きな争点の1つであるにもかかわらず問題の本質がはぐらかされ、移転の経過をよく知らない人達が自分たちの都合のいいように、しかも途方もない無駄な税金を使って、築地と豊洲の市場を勝手な方向に転用しようとしている。
  • そもそも予定通り昨年11月7日に豊洲に移転しておれば、今頃は順調に新市場の将来発展に向けて一丸となって頑張っていた事だろう。当初争点の1つだった地下水汚染問題は専門家会議で「基準値を超えていても市場では一切使用しないので問題ない」とされ、またもう1つの建物の構造についても、当初すぐにでも崩れ落ちそうと批判にさらされていたが、その後検査結果で何も問題ないし、建物の地下空洞もそのままでよいとして建築確認が受理された。
  • それにも拘わらず、そんな風評被害を撒き散らし続けた知事は「それでも都民は納得しない」と抗弁し更に2年近い年月と100億円ほどの無駄な税金を投入し屋上屋の工事をやる構えでいる。
  • 更には20年前に着工して無残に失敗した築地市場の再整備を、これまた膨大な資金と時間とエネルギーをかけて検討したいとか、豊洲市場の運営費用が高すぎるので築地を更地に整備して一般の企業に賃貸しその収入で豊洲の赤字を穴埋めするなど、自由奔放な発想で都民や移転反対の築地業者を煙に巻こうとしている。
  • 確かに初めてそんな話題を提供されると何も知らない人は「それは面白いね」と感じるだろう。さすがにマスコミ出身の知事だけにPRのうまさは天下一品だが、足が地についていない政策はうまくいかない。嘗て民主党政権が3年間続いたときにも、現実を直視しない大衆受けを狙う政策が次々に打ち出された。「八ッ場ダムの建設中止」「沖縄米軍基地の県外移転」「特別会計の埋蔵金発掘」「偽メール事件」などなど、結果は無残で民主党は崩壊し民進党に変わったが、自民党の対抗軸とはお世辞にも言えない。
  • 知事が移転中止を宣言した時の支持率90%に比較し、今年4月の支持率は77%に下がっている。女性は相変わらず高い支持率だが男性は3分の2になっている。(都議選直前では66%に低下)ジャーナリストの有本香氏の「小池劇場が日本を滅ぼす」の著作や、東京五輪組織委員会会長の森喜朗氏の「遺書・東京五輪への覚悟」の中でも小池知事の失政を厳しく批判している。
  • 最近、都が豊洲新市場を一般に公開しその設備やビジョンを説明しているそうだが、1回100名近い見学者の大半は設備や環境の素晴らしさに感嘆し、これなら豊洲移転以外に選択肢はありえないとの声が圧倒的との事だ。当然すぎるほど当然である。
  • 小池知事が「都民ファーストの会」を立ち上げるために都民の耳目を引きやすいテーマとして豊洲移転中止を選び、風評被害を撒き散らした結果がこんな結果となっただけの話だ。トップの決断というのは空恐ろしい結果を生む。
  • 築地の移転の必要性については繰り返し述べたが、知事グループが指摘するように豊洲の運営コストが高すぎて、築地市場跡地を売却して当初の負担は無くなっても15年くらい経過したら年20億円程度赤字になる事が豊洲市場の問題点の1つにあげられている。
  • これについては、昭和の後期から流通革命が浸透し多くの小売店が量販店に圧迫され、また冷蔵冷凍技術の確立で生鮮魚や冷凍魚更には惣菜等も生産者から一般家庭までコールドチェインが確立し、市場だけがこのチェインから外れた状態になった。これらが市場経営を必要以上に圧迫してきたが、抜本的な改善は築地市場の現状では困難なため、新市場でこの関連の費用が大きくなったことは否めない。
  • また仲卸や買参に売られた品物の合理的な配送システムの導入もユーザーへの利便性をもたらす大きなテーマであったが、新市場では膨大な費用をかけて配送システムを整えた事はすでに述べてきた。
  • 従ってこうした観点から新市場に入場できる業者は小売業者や生産者の大型化に対応し、コスト高を吸収できる体力のある企業に限られる。このため卸売業者も仲卸業者も今までのような小規模で非合理的な経営では立ち行かないので、これを実現するには業者間の協調、合併や有力場外業者の活用、市場内市場間のネットワーク化など新規事業の導入、究極は中央市場の民営化による活力の利用などが考えられる。それには東京都や農水省の強い指導力が必要なのは言うまでもない。このような事にこそ小池知事の力が必要なのだが激務の割には成果が人目につかないのでやろうとはしないだろう。
  • 一方業者や嘗ての東京都は、こうしたシステムや法制度の改革には及び腰で放置してきた経緯があるが、こうした体質が小池都知事の暴挙に何も抵抗できなかった原因でもある。
  • 何れ豊洲に移転という結論になると思うがこのままでは築地居座りを希望するグループとに分断され市場は機能せずじり貧状態になるだろう。
  • 最近知事は、築地の跡地の有効活用による豊洲の赤字負担軽減等根拠のない計画をマスコミに振りまいているが、実現の保証なんて全くないし、下手に実現しても役人の商法で築地も豊洲も赤字垂れ流しになったら目も当てられない。それよりも業界はこの禍を奇貨として、自らの将来は自らが切り開く自助努力で結果を出すのが本筋ではないのか。
  • すでに1年近い時間をかけ、今も移転補償費用等に毎日数千万円という膨大は税金を使って机上の空論を戦わせている神経が私には理解できない。
  • 前任知事の舛添氏は「せこい」とか「贅沢だ」とか言われ道義的責任を問われて辞任に追い込まれたが、無駄使いの額は小池知事の1万分の1に過ぎない。東京の金融シティ構想も前任者が盛んに検討していたテーマの転用に過ぎない。
  • 肝心のオリンピックについても当初35兆円のコストがかかると言っておきながら、その問題の中心としてやり玉に挙げた「ソフト部門の削減」には目もくれず、世界の関心を引きそうな3競技の会場見直しに拘り、ささやかな成果を出した反面、環状2号線の建設が築地移転のとん挫で実現できず、これによるコスト増はどれほどになるのか、また「五輪全体を統括すべき会社に社長と財務担当役員が居ない」と喝破し、無駄な費用を垂れ流している事にその後どう対応しているのかきちんと説明して欲しい。
  • 更には施設の有効活用で競技開催を委託された近県の費用負担も、前任知事の時に合意直前だったものがいまだに検討課題が残されており、これで五輪は完璧に実施できるのだろうか。国内の政治混乱で設備建設が間に合わず仮設のオンパレードで急場をしのいだリオ五輪の二の舞はご免だ。
  • 一方都民が小池知事に期待する「子育て支援、福祉対策、防災対策」などの政策は何の成果も見られないがどうなっているのだろう。スローガンとは本末転倒の政治ではないのか。

「アウフヘーベン」?

  • 最近知事は庁内で「アウフヘーベン」という言葉をよく使うそうだ。私も50年以上前に九州大学のマルクス経済学でこの言葉をよく耳にした。日本語に翻訳しても「止揚」という難しい言葉だが、今では大学生でもわかる人は10人に1人もいないだろう。
  • 弁証法の「正、反、合」の事で国語辞典には次のように書いてある。「ヘーゲル弁証法の根本概念。有るものをそのものとしては否定するが、契機として保存しより高い段階で生かすこと。矛盾する諸要素を対立と闘争の過程を通して発展的に統一すること」とある。
  • マルクスはこの理論を唯物史観に応用し共産主義の理論を築いた。

豊洲市場のお化け屋敷化。どう責任をとるのか

  • 知事は築地と豊洲をどうするかについて、新しくより高いレベルの結論を見出そうとして都庁役人に発破をかけているようだが、何も問題ない豊洲新市場を勝手にお化け屋敷にしておいて、築地を生かすか、もっと他に手立てはないかなどと、雲をつかむような話に無関係の都民を巻き込んで得意がっているが、市場関係者で素直に従う人はいない。混乱を大きくするだけのように思う。
  • 先日豊洲市場の「地下水」の浄化がまだ終わっていないことを築地市場の人に謝まったそうだが、何を見当違いな事をしているのか。謝るなら移転延期を決めた判断が間違いだった事を正直に謝るべきで、それがないとこの話は前進しない。
  • そして6月20日知事は豊洲移転と築地の再整備を決断しマスコミに発表した。両市場の機能を最大限活用する新構想で、市場関係者や都民の批判をかわし盟友公明党の顔を立てる、選挙対策としては実によくできている。しかし実態は何もない。詳細はこれから検討するとのことだが、何年先に完成するのか。費用はいくらかかるのか。市場関係者の納得は得られるのか。近場に2つの大規模市場がなぜ必要か。小池知事が都政を十分把握してこのプロジェクトを確実に遂行できる可能性はあるのか、私には夢物語にしか思えない。
  • 小池知事は、才女の誉れ高い女性が有名大学で多くの学問を修め、いよいよ実業の世界でその力を誇示しようと、現状を無視して「私の行動はすべて正しい」と頑張っている姿に見える。大怪我をしなければよいが、ここまでくればそうも行かないだろう。