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<No.62>東京、そして築地市場はどうなるのか

マンション大改修の騒音振動粉塵を乗り切った

  • 昨年は自宅マンションの大改修工事で、騒音振動粉塵に長期間見舞われ大変な年だったが、終わってみれば外装、内装ともすっきり生まれ変わり晴れ晴れとした気持ちになった。居住者は少ないが一応理事長だったので、施工会社とのトラブル交渉などかなり苦労したが、久しぶりに中身の濃い仕事をした感じだ。事前の調査をしっかり行い目標をきちんと設定しそれに基づいて話を進めて行けば結果は自ずとついて来るものだと改めて感じている。

グローバル化の功罪

  • ところで目を国外に向けると昨年はマスコミの事前の予想を覆して、イギリスの国民投票でEU離脱が決まり、またアメリカ大統領選挙でも当初は泡沫候補と言われたトランプ氏が本命のクリントン氏を破って当選し、結果世界中に先の読めない大波乱を招いている。
  • 1990年代に東西冷戦が終わって世界はグローバル化が進展してきたが、その反動としてナショナリズムが台頭していると言われる。特に経済的なグローバル化が多くの分野で問題を引き起こしているのは明らかで、波に乗り遅れた人達が貧困化し反乱をおこしているのは上記の結果を見ても納得できる。
  • こうした民意をくみ上げて政治を進めるポピュリズム(大衆迎合)という言葉を最近よく耳にするが、単にそれだけでは民主主義の本質から逸脱している。米英の国民の決断が国内外にどのような影響を与えるのかこれから徐々に明らかになろうが、自国民の約半分の不満を吸い上げ政治に反映する事が出来たと言う事は、既成の枠組みに安住したい体制側の人としてはマスコミも含めて謙虚に反省する必要がある。

小池東京都知事の迷走

東京オリンピック開催計画の混乱、無駄遣い

  • 一方国内では都政が小池知事に交代して大きく変わった。都民の過半数の支持を獲得して都知事に就任したのだから独自のカラーを打出すことは大いに結構で、手始めに築地市場の豊洲移転延期決定、次いでオリンピックのコスト削減対策を見てきたが、やるからにはもっと問題の実態を掌握してから実行すべきである。
  • 前者は101日付け会長メッセージで持論を展開したが、後者は事態が迷走している。最初に知事から組織委員会へのクレームで「五輪招致時の開催経費が7300億円に対し、独自の試算では3.5兆円と見込まれる」とのことだった。テロ対策や輸送等いわゆるソフト関連が1兆円とか、「五輪全体をまとめる人がいない。まるで社長や経理担当役員がいない会社のようだ」と喝破し、この費用が5000億円ということだった。(9月末時点では総費用3兆円超に修正されてはいるが、それでも巨額の差がある)
  • しかしこれは算出のベースが違っているようで、五輪を機会に東京のレベルアップ対策を実施する費用が多額に見積もられている。それに見合う収入として例えば日銀の試算では観光客の増加で30兆円の効果が見込まれている。オリンピック決定の前年は1000万人足らずだった海外からの旅行者が、今年は10月末ですでに2000万人を超えている状況からしても五輪前後の10年間で延1.5億人くらいの観光客の増加は確実だ。そしてお土産一人平均20万円程度は考えられるので明らかに莫大な増収である。もちろん全部が五輪の影響とは言わないが、東京五輪が決定した事が拍車をかけた事は疑う余地がない。
  • 経営の神髄は「出るを制して入るを図る」事だが、東京五輪関係収支を彼らはどう考えるのだろうか。レガシーや施設の有効利用だけが五輪経営のすべてではない。
  • 知事は水泳、バレーボール、カヌー等の3競技場を新設せずに既存設備の手直しや、復興アピールも兼ねた宮城県での開催を提案したが、案の定選手や競技団体、更にIOCや関係自治体からも難色を示され、いずれも新設で若干の規模縮小に止まった。3年も前から関係者と何度も視察や打合せを経て決まったものを、大した調査も打合せもせず都民の後押しという錦の御旗だけで事を進めた結果の手痛い失敗である。
  • 他にもヨットやサーフィン等他県で開催の競技についても建設費や運営費のコスト負担割合が決められず施設の建設が間に合わないとの苦情が出ている。IOCは東京のこれまでの準備遅れに加え、コストの肥大化により次期以降のオリンピック開催に立候補する都市が減少している現状に危機意識が大きく、今回の知事のクレームに対しIOC, 国、都、組織委員会の4者会議を設置し話を円滑に進めているが、こうした外圧でしか話が進まない状況は情けない事だ。
  • 組織委員会が五輪総費用2兆円程度という案に対し、IOCは更にコストダウンし上限を1.8兆円とするよう提案しこれが最終目標となったが、知事の提案した3.5兆円の総経費の試算はどうなったのだろうか。まさか差額の1.7兆円のコストダウンを自分の働きで実現した等といい加減な事は言わないと思ったが、先日の記者会見で上記の主旨を発言し、都五輪プロジェクトチームの使命は終わったので解散するとのこと。あいた口がふさがらない。まだ他県へ振り向けた競技の費用負担を始め懸案は山積みだが、まるで台風が吹き荒れた後のようでこの先が大いに心配である。

築地市場移転の混乱

  • 次に豊洲移転延期の問題だが、当初の2016年11月7日から少なくとも1年は延期となり、建物の地下に盛り土をしなかった都の関係者は退職者も含む20人以上が左遷やけん責処分、減給処分となった。
  • これは別の角度から見ると、「豊洲新市場は地下水が公害物質でひどく汚染されており、毒ガスも湧きだす可能性が高い。建物は関係業者の要望も聞かず重い荷物をタ―レで運ぶといつ崩れるかも知れない危険な構造物であり、これを建設した都及び建設業者の仕事は実にいい加減である。」という烙印が押され世界中に知れ渡った事である。
  • これにより築地卸売業者の初期投資が冷蔵庫棟や冷凍設備、場内無線LAN等の数百億円これの維持費に毎月4。5億円。仲卸なども同様に数十億円投資しており、毎月の費用が1,5億円。都の施設維持費に毎月1.5億円と、少なくとも7.5億円/月の建物関係の無駄な費用が発生する。移転が早くても来年末なら少なくとも100億円以上の無駄な税金が使われる事になった。
  • またこのために旧マッカーサー道路(環状2号線)の延長で、湾岸方面への道路の建設が五輪に間に合わなくなった。完全な代替道路は不可能であり、五輪のソフト経費が一段と膨らむ。
  • 市場業者の気持ちは今となっては移転すべきか否か複雑であろう。従来築地と豊洲の地価は3:1だった。豊洲が銀座から遠い分賑わいが少ないからだ。今は豊洲の街もすっかり垢ぬけた町に変貌してきたが、新市場の周辺は必ずしも十分とは言えない。その分を五輪の経済効果にあやかって何とか頑張り、新しい施策も色々取り揃えていたようだが、それがすべて無駄になってしまった。
  • 仲卸業者約600社の半分以上は赤字経営で移転を機に廃業する可能性があったが、この状況なら商売を止める理由はない。となれば築地の建物の修繕費用など維持費も相当かかることになる。都知事のプロジェクトチームはそれを察知して築地市場の耐震建築化費用も検討し始めているようだ。
  • 実は本当に問題なのは先述の決定までの経過を、メディアが何の検証もなく無批判にニュースとして連日流し続け、些細なミスや嘘情報まであたかも本当の事実のように人々に認識させてしまい、結果的に6000億円も投入した大工事が水泡に帰した事である。
  • もしこの豊洲新市場が生鮮食品市場には使えないと決まったら、誰かに売却するしか無いが、建物の造りからして物流施設か今話題のカジノにでも転用するしか無かろうが、売却価額は半分以下になる可能性が高い。
  • その場合、築地市場は時代遅れの施設なのであらためて再開発せねばならないが、1996年に再整備を中止した頃より荷扱い量は大幅に減少しているので、工事ははかどるにしても、総工費は当時の4000億円を多少下回る程度だろう。そして残念ながら23万m2の土地価額推定5000億円は眠ったままになる。
  • その結果豊洲の住民は不良資産を押し付けられ環境の悪い地区となるので黙ってはいないだろうし、築地市場の将来は真っ暗になる。
  • もちろんこうした状況は避けたいので地下水の浄化設備や建物の強化に設備投資をして、移転宣言をするだろうが、例えば建物地下へ盛り土埋め戻しを実施すると50億円かかるとの情報もある。しかしこれらの諸費用は全く無駄な政治的コストである。
  • そもそも6000億円もかけて優秀な都職員やゼネコン、市場関係者の英知を結集してまで、知事が言われるような建物、設備を建設する意義はどこにあるのだろうか。もともと湧いて来れば排水する地下水の水質が上水の基準を少し超えたぐらいで将来どれほどの問題が考えられるのか。そんなに問題なら築地市場の地下水ときちんと比較調査して欲しいし、嘗てはゴミ捨て場だったお台場の地下水とも比べてみてはどうか。
  • 建築物の強度については現施設が工法として最も優れており、また盛り土があると地下水の上昇で不衛生になるので建物の地下は空間の方が良いとの見解が一般的である。しかし決まったルールがたとへ状況に合わないとしても、そのルールを破った事の方がはるかに責任が大きいと言う理由で、結果として莫大な損失を都民に強いる事になった。これがポピュリズムの弊害と言わずして何と言えばいいのか。
  • 知事は建築費が高すぎるとか、豊洲での新市場建設決定が正しかったのか専門家を入れて調査をするとのことだが、現状のみを見て枝葉末節をあげつらうのではなく、築地市場の再整備、移転の問題について30年以上前から今日までの状況を十分理解した上で、本来ならこうすべきだったと言う調査結果をきちんと示してほしい。そうでなければ冤罪を被っている都の関係者やゼネコン。そして将来の事業展開の行く手を阻まれた市場業者には到底納得できないだろう。

無責任発言

  • 最後に、年末に東京都の来年度予算が示され、都のGDPを2020年までに5兆円を投じて20%拡大、世界都市順位を3位から1位にするなど盛り沢山の施策を計上しているが、8割の支持を得ている都民に対して言いっぱなしの無責任な結果に終わらないよう、実現に精一杯努力して欲しいものだ。