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<No.58>スポーツを汚す者

リオオリンピック開催を前にして考えること

  • 今年の8月に南米の大国ブラジルのリオデジャネイロで夏季オリンピックが開催される。日本は4年後の東京大会の準備もあり、前哨戦としてのリオ大会を前に選手強化を着々と進めている。金メダル目標はロンドンの倍増の14個と勇ましいが、昨年の世界選手権では柔道、体操、水泳、女子レスリングなどで18個の金メダルを獲得しているので、決して夢物語ではない。
  • 東京大会では25~30個を目指すという目標からするとむしろ低めの設定であろう。これからも更に施設の完成、選手の競技力向上、国際交流、治安の確保などに国を挙げて万全に取り組んでほしい。
  • 一方ブラジルは2年前にサッカーWCを無事開催し終えたが、今回のオリンピックは開催が本当に可能なのか、自国他国の不安要因を合わせて問題が山積している。経済が破たん状態で、競技施設が予定通り完成するのか。観光客の受け入れ態勢はできているのか。通貨不安や貧困層の拡大、失業の増加などで政治的混乱が拡大しているが、治安維持は可能なのか。更に昨今ジカ熱の感染拡大で特に妊婦には小頭症の子供が生まれる不安があり、他国の選手や観戦者が入国をあきらめる可能性もある。

ドーピング問題も深刻化

  • そしてここにきてロシア陸連傘下の多数の競技者がドーピング疑惑で長期の出場停止処分を受け、これに関連して指導者が選手と一体となってドーピングを奨励し、またロシアRUSADA(ドーピング検査機関)がこの事実のもみ消しに協力している実態が明るみに出てきた。すでにRUSADAやロシア陸連は機能停止処分を受け、大幅な機構改革や人事一新を達成できなければリオオリンピックへの参加を拒否される危機に瀕している。
  • 更に長距離王国ケニア、エチオピアでも大量のドーピング疑惑が報道されている。幸い日本は国民の高い潔癖症の成果か、はたまた武士道精神の影響で、ドーピングによる体力増強、精神力の向上に手を出す人間は見受けられないが、こんな状況が他の競技でも噴出して来るならとてもオリンピックどころではない。(すでに競泳でも疑惑が起きている)
  • 嘗て1990年代頃まで共産圏のソ連、東欧諸国や中国で、国威発揚のためにドーピングが陸上競技や競泳などのメイン競技の他に、重量挙げやレスリング、自転車等でも大量の違反者が出て罰せられた。西側でも100Mのベン・ジョンソンがカール・ルイスを破った直後のドーピング発覚の衝撃は記憶に新しい。(最近テニスのシャラポア選手にも疑惑)陸上競技などでは20~30年前に出され世界記録で、今でも更新が難しいものがかなり残っているが、すでに亡くなった人もあり実態調査は困難だろう。

スポーツを汚す者

  • 近代スポーツは18世紀の産業革命以降に発展してきたもので、仕事の余暇を利用して体力精神力をリフレッシュする事が目的であった。いわゆるアマチュア精神が基本であったが、競技力が向上し、競技の施設や運営、その影響力の拡大、宣伝効果などが大きく変質し、金メダルを獲得する事が個人の努力だけでは到底不可能になり、団体や国を挙げてのバックアップ体制が不可欠になってきた。賞金を稼ぐのが目的のプロ選手の登場であるが、個人の生活を丸ごと捧げるわけであり国威の発揚や企業の宣伝効果にも大いに影響するので、当然の見返りと思われる。
  • しかしそのために薬物の力を借りて肉体改造するのは、技術、体力、精神力を自らの努力で向上させるスポーツの根本精神から大きく逸脱するもので、もはやそれは正常な人間ではない。また多くは自分の健康な体を毒物で台無しにする行為であり、そんな競技は見る価値も実践する価値もない。従ってこの機会に世界的に徹底して、犠牲の大きさを恐れず改革すべきである。
  • 更にスポーツを汚すものとして、昨年からFIFA(国際サッカー連盟)の汚職疑惑で最高幹部が多数逮捕者されている問題がある。アメリカとスイスの司法当局が中心になって実態調査中だが、報道ではマフィアよりもひどいことを平気でやっていると言われる。
  • 過去の2人の会長が40年にわたって世界のサッカー界を、より魅力あるものに育ててきた事実は高く評価したいが、その過程でどんな悪事がなされていたのか。実態の解明を待つしかないが、2018年のWCロシア大会に次いで2022年に砂漠の国カタールで開催を同時期に決めた事は何か釈然としない。
  • 2月末にインファンティーノ新会長が選ばれ、権限の縮小分散等組織改革に先ず立ち向かう事になろうが、サッカーは世界一人気のあるスポーツなるが故に、お金がますます集まって来る状況を如何にクリーンに運営していくのか責任は非常に重い。
  • 昨年ワールドカップで日本が南アを破って世界を驚かせたラグビー界も、人気が世界的に高まって資金の集中が強まり、下手をするとFIFAの二の舞になりかねないと言われる。2019年日本のラグビーWCが金まみれで不測の事態が起きない事を願うばかりである。
  • 一方テニスの国際試合では八百長が仕組まれ、選手が加担している疑惑も浮上している。日本のテニス界は錦織選手の活躍などで、大いに盛り上がってきているのに水を差された格好だ。八百長は日本のプロ野球でも1969年に当時の西鉄ライオンズの複数の選手が八百長試合を行い永久追放処分を受けたが、先日巨人の3選手が野球賭博に拘わり無期限追放処分となった。(最近もう1選手の賭博が発覚)
  • 大相撲の世界でも2011年に八百長疑惑が持ち上がり、春場所が開催中止に追い込まれ、多数の処分者が出たのは記憶に新しい。八百長の前提には競馬、競輪を始めパチンコ、宝くじ更には私的な賭けマージャンなど射幸心を煽る賭け事が多数存在するので、これを利用した黒い魔の手が伸び易い。八百長の助長を防ぐのは個人の自制心しかあるまい。普段の心がけが大事だ。
  • また最近はやや影をひそめたが、コーチや上級者による暴力的指導やセクハラ的言動も後を絶たない。選手の力を伸ばすのは、その人の精神力や体力に秘められた可能性を自ら引出すのを手伝うことであり、ただの叱咤激励は教える側の無能を意味している。
  • 最後に麻薬に手を出す選手や芸能人も後を絶たない。緊張状態を維持することは大変だが、それに負けてしまうようでは人にその素晴らしさを誇る資格はない。
  • このようにスポーツのクリーンな環境を維持する事は本人の心がけだけでは困難で、すべての人々が常にその存在意義に強い関心を持って守っていく努力が大切である。