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<No.56>無事これ名馬

実りの秋、スポーツの秋、東京オリンピックの開催

  • 今夏は8月前半の8日連続の猛暑日という記録的な暑さで、さすがに心身ともに消耗した感じだ。暑くてもできるだけ冷房は使わず、また健康維持のため毎日1万歩を続けていたが、歩いた後の疲労感が例年とは違った。しかし8月後半からは一転曇り空と大雨で、特に関東地方は「線状降水帯」と言う気象現象で長時間豪雨が続き栃木、茨城等に大きな被害が発生した。竜巻や1時間の降水が100mmを超える豪雨とか今までに経験しない異常気象が頻繁に起こっているが、やはり温暖化が進行している所為なのだろうか。
  • 現在はやっと例年通りの食欲の秋、紅葉の秋、スポーの秋が訪れている。桃、梨、葡萄等旬の果物、日本の穀物の代名詞である新米、そして脂の乗った鯖、さんま、戻り鰹等の魚類は夏の疲れを回復する絶好の食材である。観光旅行もこの時期は楓や銀杏等色とりどりの美しい樹木の葉が目を楽しませてくれる。
  • スポーツの秋ともなれば5年後の東京オリンピックを話題の中心に、世界の目が一段と日本に向けられている。外国から訪れる観光客が来年あたりは目標の2000万人に早くも近づきそうな勢いで結構な事だが、2年前に開催が決定した後不祥事が頻発しているのは残念だ。
  • 東京開催を牽引した猪瀬前都知事の献金疑惑による辞任、新国立競技場の建設費の暴騰、五輪エンブレムの盗作疑惑などで、後の2件は原案破棄、再検討になったがまだ後を引きそうだ。これからまた問題が発生しないようオープンに物事を進める事が肝要だ。競技会場を開催都市にこだわらない等IOCの五輪開催に関する考え方が大きく変わって,実質的に初めてのオリンピックになるわけだから,今後のオリンピックの模範になるような大会であって欲しい。

無事これ名馬

  • さて近年はウィンタースポーツが盛んになって1年中スポーツイベントが開催されているが、メジャーな競技では戦う選手の健康や競技の裏方を支える人の都合、観客の要望などはあまり考慮されず、お金に物を言わせるマスコミやスポンサーの影響が強くなり過ぎたようである。本来ならオリンピックは春か秋に開催するのが良いと思うが、競技団体の意向やスポンサーの強い要望で真夏の8月に開催するのは選手たちには残酷な話である。
  • 2022年のサッカーWCを猛暑のカタールで開催するのも、オイルマネーの力とはいえ何か疑惑を孕む決定である。状況を打開するため冬開催に変更するようだが、それが可能ならオリンピックも秋にずらしてほしいものだ。
  • 違反薬物の蔓延も、メダルの獲得で選手生活が大きく変わる時代になったので、どうしても悪魔の誘いに乗る人が出てくるが、これは選手を人間から非人間に変え、大会がロボットの競技になり下がってしまうので、違反摘出は今後も徹底的に実施してほしい。
  • 来年に迫ったリオ五輪は施設建設の遅れや治安維持などに多くの心配があるが、去年サッカーWCを立派に成功させた経験があるのでまあ何とかなると思いたい。日本の選手強化はかなり予算が増え、メダルの報奨金も増額してきたので成果が出始めている。ロンドンで惨敗を喫した柔道がこの1~2年で大きく成績を向上してきたのはうれしい事だ。やはり組織の抜本改革の成果が出ているのだろう。バスケットボールのごたごたも国際連盟の制裁によりやっと国内が一本化し、女子の五輪出場権を全球技で一番先に獲得するという快挙につながった。女子レスリングや体操など日本の得意種目でも躍進が期待され、水泳も金3個を確保し、日本ではマイナーのラグビーWC初戦で、強豪南アを破る歴史的大金星を上げた。
  • しかし問題は陸上競技だ。オリンピックのメイン競技は陸上が1位であり2位は水泳であることは世界の常識で、この2競技を中心に五輪の大会は組み立てられている。日本の水泳はクラブ制度を導入してやっと復活したが陸上競技は先が見えない。今夏の世界陸上では銅メダル1個入賞2人と最低の成績だった。それにも拘わらず陸連の総括は「リオで楽観視は許されない。選手に高いレベルの更なる努力を期待する」と、まるで評論家並みで、このままでは50年前の東京五輪と同じ結果が繰り返される気がする。ロンドン五輪のイギリスの取り組みをもっと見習うべきだ。
  • 五輪や世界選手権などスポーツの効用は非常に大きなものがあるので、出場選手に結果を期待するのは当然だが、そのためには選手の技術体力の向上だけでなく、けがをしにくい体造りや精神力の強化の重要性を非常に感じる。今夏の世界選手権でも水泳の萩野選手、陸上の桐生選手を等が故障欠場し、プロの世界でも大リーグのダルビッシュ投手が肘の手術で離脱、テニスの錦織選手もまだ大事なところで故障棄権の事態が起きている。このように日本のスポーツ界の宝が力を発揮する前に戦わずして脱落するのは何とももったいない話である。
  • 精神力の点では大相撲の日本の3大関のふがいなさはその典型だろう。日本の国技をモンゴル勢に席巻され横綱を独占されて、優勝も足掛け9年間皆無とは何とも情けない。また大きな大会で自己ベストを出せない選手たち、特に世界陸上では50人中わずか一人しかベストを出せなかった結果を十分反省し、強化を再検討すべきだろう。
  • 他方、大リーグのイチロー選手、女子レスリングの吉田選手やサッカーの澤選手、秋場所は横綱昇進後初めて休場したが大相撲の横綱白鵬等超一流の成績を残している人達は、けがによる欠場が全くと言っていいほど無い。またスランプもあるとは思うがそれをほとんど感じさせない。
  • 嘗ての厳しい精神鍛錬に基づく指導が中心の時代でも、優秀な選手は良く練習し、けがをしてもすぐ試合に復帰していた。プロ野球の王、長嶋、金田選手等はこの典型だった。
  • 現代は科学的トレーニングが中心となり、鉄拳の制裁などの暴力的指導は大幅に減少しているようだが、結果が伴っていない。大リーグの松坂投手を始め田中、岩隈等日本で超一流の評価を受けた選手の多くが短期間でけがのため手術、戦線離脱を繰り返しているのはいかがなものかと思う。
  • 競馬の世界には「無事これ名馬」と言う諺があるが、これはどのスポーツにも否あらゆる分野でも通用する、生活していく上で最も大事な原則であろう。どんなに早い馬でも足にわずかなヒビでも入ったら出走できず、場合によっては薬殺の運命にある。特に若い選手に期待が先行して、結果を急ぎ過ぎるあまり無理を強いて選手寿命を縮めてしまう愚かさを繰り返して欲しくないものである。