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<No.48>東京オリンピック開催に思うこと

東京オリンピックの開催決定

  • リオデジャネイロ五輪の次は再び東京に決定した。1964年の東京オリンピックを経験した我々世代としては、「五輪の聖火を再び東京へ」と言うスローガンはごく自然に聞こえるが、知らない世代にしてみれば、「東日本大地震からの復興のために」とか「環境に優しい五輪」の方がぴったり来るだろう。
  • あの五輪で、若い坂井義則君が聖火を掲げて大観衆の中を爽やかに走った事、バレーボールの「東洋の魔女」の金メダル獲得、エチオピアの裸足の哲人アベベが靴を履いて当時の世界記録を3分も更新してゴールした場面、「小野に鉄棒」の異名を取った体操の大活躍、これに負けじと男子レスリングがグレコ、フリーの両方で金メダルを稼ぎまくった事、そして日本で発祥の五輪新種目の柔道で、オランダのヘーシンクに日本の神永が抑え込まれ悔し涙にくれた場面など、今でも鮮明に思い出す。
  • 一方で五輪に付きものの各種のアトラクション種目が事前の話し合いがつかず、結局すべて中止になったのは、残念な事であった。あの五輪を境に日本は本格的に高度経済成長が始まり欧米先進国の仲間入りができたように思う。とにかく将来に漠然とした期待感があり、仕事にも家庭生活にも多忙を極めたが充実感がに満ちていた事は確かで、平成の経済崩壊逼塞観とはま逆の環境にあった。
  • 新幹線の開通や高速道路の延伸と自動車社会の本格的到来、職場や家庭では家電製品が普及し、コンピューターの高性能化で仕事や家事の能率は著しく向上、いわゆる文化生活が享受されるようになったが、反面水俣病やイタイイタイ病、大気汚染、湖沼の富栄養化などの公害も著しく増えた。光化学スモッグ警報が頻繁に出されるようになったのもこのころからである
  • 家族構成では少子化が進み兄弟や友達との触れあう機会が減った。教育では進学率が高まり特に女性の高学歴化が進んだが、偏差値指導が徹底したおかげで個人の特性が生かされない進路指導が行われるようになった。
  • 私の携わった生鮮食料品の販売でも、小売店がどんどん減り代わってスーパーやコンビニなどが進出し始めたのもこの頃だ。功罪半ばするが、この切掛けになったのが、あの東京オリンピックだったような気がする。それは欧米でも同じだと思うが、特に新興国ではその傾向が著しいようだ。
  • 今の五輪は開催国にとっては経済的にペイしないという議論はあるが、30年前50年前とは世界の環境が著しく変化しており、今回の東京五輪はコンパクト、安心安全、環境に優しいなどがテーマであり、この点新しい五輪の先駆けとして記憶に残る大会にしてほしいものだ。
  • 除外が心配されたレスリングも無事開催種目に復活した事は二重の喜びである。関係者の努力も大変だったと思われるが、多くの人達が、古代オリンピックの時からのメーン種目であるレスリングが除外の対象になった事が予想外ではあった。
  • IOC理事の間にどんな思いがあったのか知らないが、除外対象となったテコンドー、近代五種、カヌー、ホッケーなどのマイナー種目の中にレスリングがあること事態違和感を覚えた。ルールをわかりやすくとかスピーディな動きをとかの勧告に耳を貸さなかったというおごりがあった事は否めないが、これを機会にさらなる普及を心がけてほしいものだ。
  • この事に関連して、6月に霊峰富士山がユネスコの文化遺産に登録される事に決まったが、驚いたのは「三保の松原」が除外から逆転、資産に含めると決まった事である。
  • 私は決定の日にたまたまこのテーマの講演会に出席していたが、講師も「三保の松原」は除外勧告さているので、多分一旦それに従い、後日追加申請するのではとの話があったくらいだ。
  • しかしその逆転登録が決まった裏には地元の熱意だけでなく、文化庁トップの関係各国への周到な根回しが奏功したようである。「石見銀山」の登録の時も一旦外されかけたのを、同じ人達の熱意の働きかけで登録を勝ち取ったそうである。
  • こういう地道な行動はこれからますますグローバル化する国際関係においてますます必要になるだろう。その意味では我々に大きな勇気と指針を与えてくれたようである。
  • 翻って開催権を勝ち取った東京五輪も、当初は「イスラム圏初の五輪」「ヨーロッパとアジアのかけ橋」のイスタンブールにリードされ、更に猪瀬都知事の失言でもはや実現不可能と思われていたが、トルコの現政権に対する不満のデモが突如発生し自滅した感があり、いわば漁夫の利を得た格好だが、数度のプレゼンテーションなど多くの有名無名の人達の努力の結果が幸運をもたらしたのだと思う。
  • 今の世の中はいつ何が起こってもおかしくない時代になってしまった。決まった以上は万難を排して2回目の東京五輪を日本と国民に明るい未来を展望できるような大会にしてほしいものだが、やはり競技の内容、日本人の活躍ぶりも見逃せない。
  • 中でもメイン競技の陸上競技や水泳などで、例えば今売り出しの「ジェット桐生」選手が陸上競技の花「100メートル決勝」でアメリカやジャマイカの黒人ランナーを尻目にトップでゴールテープを切ったら、日本国中が湧きたち東京五輪の大成功は間違いなし。そんな夢を描いている。