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<No.42>ロンドンオリンピック雑感

  • 7月27日から17日間にわたり開催されたロンドンオリンピックが、多くの話題を世界中に提供して無事閉幕した。思えば7年前の開催地決定の翌日にロンドン市内で同時多発テロが発生し56人の人達が犠牲になった。そのため警備システムの強化に全力を注ぐとともに、産業革命の発祥の地であるロンドン東部地区の再開発のために、多額の資金とエネルギーが投入されたという。 
  • 一方自然と共生している国を印象付ける開会式での舞台装置や、現代エンタテイメントの最先端を行く閉会式の演出などが世界中の人々を魅了した事だろう。オリンピックはかくも大きなプラスのインパクトを与えるものだと改めて感心した。
  • ところで競技の結果を示すメダル獲得数は、金メダルの数ではアメリカが陸上競技や競泳などメイン競技で遺憾なく実力を発揮し46個とトップ。北京大会で敗れた中国に雪辱した。その中国も卓球、バドミントンを始めまんべんなく活躍して38個を獲得し、しぶとく2位の座を確保した。
  • 次いで開催国のイギリスが地元の利と全種目参加の権利を十分生かし、又世界の有望選手の帰化政策なども進めて、めでたく29個で3位を占めた事も特筆される。ロシアは24個で4位に甘んじたが旧ソ連の15カ国を合算すると46個と首位アメリカと並び、メダル総数では163個と圧倒的に強い。やはりスポーツ大国の地位は変わらない。
  • 5位は韓国の13個でアーチェリー、射撃、フェンシング、柔道、体操、テコンドーなどかなりの分野にまたがっている。近年韓国は冬季オリンピックでも活躍しており、又プロゴルフの世界では日米女子ツアーがまるで韓国ツアーと間違えるほどの活躍ぶりである。
  • 以下ドイツ、フランス、イタリアなどのヨーロッパ諸国が続くが、信用不安の真っただ中にも拘わらず大活躍である。金融経済はスポーツとは無縁なのか不思議な話だ。
  • さてわが日本の金メダルは目標の15個を大きく下回る7個と世界の11位にとどまった。これは大会前の期待が大きかった柔道の誤算が大きく、又体操や水泳も金メダルには届かないケースが多かったが、メダルの総数は38個と史上最高を獲得し世界で6番目となった事は大いに評価される。
  • 競技開始から毎日メダル獲得のニュースが流れ続けた事は初めてだが、これは多くの競技種目に亘ってメダルを確保した事を意味する。実際に26競技中半分の13競技からメダルを獲得している。
  • 種目別では何と言ってもレスリングの大活躍で、特に女子の吉田、伊調両選手のオリンピック3連覇は特筆される。この快挙は日本では柔道の野村選手のみだが世界にも数えるほどしかいない。次大会のリオで4連覇でもしたら史上に不滅の名を残す事になる。
  • その他にも男子レスリングやボクシングで数十年ぶりの金メダル、競泳の11個のメダル獲得などの活躍ぶりが目立つが、注目したいのは団体種目での活躍が顕著だった事。中でも女子はなでしこジャパンの涙の銀メダル、戦前の予想を覆したバレーボールの銅メダル、天敵シンガポールを倒して中国の牙城に迫った卓球の銀メダル、それに加えて史上初のバドミントンペアの銀、3人の息のあったアーチェリーの銅といずれも日本人の琴線に触れるような勝ち方で感動と勇気を与えてもらった。
  • 男子も松田選手の語った「康介さんを手ぶらでは返せない」400メドレーリレーの銀メダルや、準決勝残り1秒で逆転したフェンシング、そしてサッカーでも4位と頑張ったが、女子のこの活躍にはかなわなかったようだ。現在の日本社会の男女の勢いをそのまま反映したような結果でもある。
  • メダルを獲得した日本選手の多くが、「指導者や家族ばかりでなく多くの人達の助けがあって取れたメダル」とか、「大震災の被災者の皆さんに感動と勇気をあげられたらうれしい」と語っていたが、これこそ日本の現代のスポーツの原点であろう
  • しかしオリンピックは地位と名誉を実現するための最高の場である事も事実である。したがって参加するためには厳しい試練に耐え心技体を最高にする努力を惜しんではならない。
  • 今回もそうした努力の結果が成績に反映されたわけだが、期待に反した競技の筆頭は柔道であることは衆目の一致するところだ。しかし結果は金1、銀3、銅4、だから半数以上はメダルに絡んでいる。柔道はもともと日本が発祥のスポーツであり、世界に普及するにつれて成績は山あり谷ありの繰り返しであったが、今回もこの成績を踏まえて再生復活するための議論をたたかわせ、成案を実行するための豊富な人材と組織が柔道界にはあるので、特別心配する事はないように思う。
  • 問題はむしろオリンピックのメイン競技の陸上競技であろう。今回も銅1、入賞2と言う惨めな結果に終わった。前半は競泳で気勢の上がった日本も、後半のメインの陸上競技では、短距離のボルトの快走やイシンバエワの棒高跳びなど注目はほとんど外国人の活躍だけで、これでは深夜に起きだしてテレビを見る気にもならない。幸いレスリングやボクシングの活躍で後半もオリンピックへの興味は継続されたが、物足りなさは否めない。
  • 戦後しばらく陸上競技の活躍の機会はなかったが、バルセロナ大会から北京大会までマラソンや男子400リレー、長距離、投躑競技などでメダルを獲得しており、又戦前までさかのぼればアムステルダム、ロサンゼルス、ベルリンでは跳躍競技などを中心に、日本は陸上王国の一員であった。特に三段跳びで3連覇した事は今でも有名である。
  • 戦後日本人は食糧事情の改善で平均身長が男女とも10cm以上も伸び、白人や黒人とそれほど遜色はなくなった。経済環境もいち早く高度成長を達成し、平均的に裕福になった。インフラ整備やスポーツ施設も充実して世界に勝てない要素はあまり無くなった。あるとすれば強化システムの問題だろう。
  • 競泳も戦後の古橋、橋爪、山中の時代の後は、しばらく低迷が続き、当時力が伯仲していた日米対抗も差が開き過ぎて取りやめになったが、その後アメリカのクラブ制度を導入して次第に復活した。
  • 陸上競技の短距離王国ジャマイカも20年前に陸上専門のクラブ制度を導入して、今や世界一の地位に昇りつめたが、嘗て同じ西アフリカから奴隷として送られてきた黒人の国
  • ドミニカでは、野球はめっぽう強いが陸上短距離は日本人よりはるかに弱い。またケニヤやエチオピアは長距離王国の名をほしいままにしているが、科学的な調査によれば、前者はリフトバレーという高地に住むカレンジンと言う種族の内のナンディと言う集団だけが桁違いに強い(後者はアルシ地域に住む人)。彼らは非常に誇り高く戦闘にも滅法強い。小さい時から山野を駆け巡り、学校にも10km以上を毎日走って通い、経済的な事情で他部族の牛を闇にまぎれて奪う時には100マイル以上も走るような生活をしているそうだ。
  • 事の善悪は別としてそうした中の更に優れた人物を選んで、最新のトレーニングを受けさせるので強くなるのは当然かもしれない。しかしこれは黒人だから強いのではなく厳しい生活環境、政治情勢、低い文化レベルを乗り越え、しかも精神的に大きな心棒が通っているがゆえに、圧倒的に強い選手が多数育つのだろう。
  • こうした人たちに比べて今の日本はあらゆる面で有利である。本気で強化を目指すのならまずそのシステムつくりから始めねばなるまい。それには先ず最初に関係者の意識改革が求められる。「徒競争はみんな手をつないでゴールイン」とか、「通学は車まで送り迎え」と言う事ではとても一流の選手は育たない。
  • 今日8月20日午前11:00から、銀座大通りでメダリストの大パレードが華やかに取り行われた。先頭の吉田選手はもちろん、なでしこの澤さんも、卓球の愛ちゃんもみんな大役を終えてさわやかな笑顔を振りまいていた。50万人の大観衆も大きな声で心から祝福を送っていた。
  • 日本国民はメダリストたちから、再びあのオリンピックでの多くの感動と勇気をもらったようだ。来年のオリンピック招致決定にもいい影響があったと思う。私も日本選手の連日の活躍で、毎日チョー暑い時期を元気で過ごせた事を心から感謝している。