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<No.41>ロンドンオリンピックによせて

  • 7月27日からスポーツの祭典ロンドンオリンピックが開幕する。
  • 古代オリンピックは規模も主旨も今とは異なるが1100年の長きにわたり継続し、この期間中は戦争を止めるという掟が守られていたという。
  • 一方1996年にアテネで近代オリンピックが始まって116年。今回で30回目を迎えるが、平和の祭典を標榜する割にはこの間戦争のために3回中止、東西冷戦のために2回ボイコット、更にはテロによる死亡事故など平穏な開催ばかりではなかった。
  • 又「オリンピックは参加する事に意義がある」とか「アマチュアリズムの最高の大会」という理想を掲げていたが、競技種目の増加や商業化の進展で何時しかそんな理想も退けられ、「勝って富と名声を獲得する最高の場」と化してしまった。そのために人間の体を薬で改造してまで勝利にこだわるドーピングと言う新しい問題も持ち上がってきた。
  • それはそれとして現在欧州は金融危機の最中にあるが、イギリスはエリザベス女王の在位60年の記念行事を終えたばかりで今や世界の注目を一身に集めている。
  • ロンドン開催は1908年、1948年に次いで3回目と最多開催だが、日本は08年には不参加、前回は第二次大戦の敗戦国のため招待されなかったので、今回が初めての参加となる。全26競技302種目、200か国、1万人を超える競技関係者の参加などこれ以上のビッグイベントは他に例がない。
  • 過去数々の名勝負や驚異的な記録の誕生に世界中の人々が興奮を新たにしてきたが、今回もボルト選手の100メートル走の世界記録更新や北島選手の平泳ぎ2種目3連覇、なでしこジャパンの女子サッカー金メダルなど多くの話題が満載だ。日本も参加選手の大方が決まり、それぞれ最後の調整に励み大会に臨む意気込みも語られている。
  • 1964年の東京オリンピックの時は、日本経済が高度成長に突入し国全体が未来に向かって明るい展望を持って突き進んでいた。「東洋の魔女」がバレーボールで優勝、柔道、体操、レスリング、重量挙げなどの種目でも大いに活躍し、16個の金メダルを獲得した事を今でも鮮明に記憶している。
  • エチオピアの裸足の王者アベベ選手が、その時はシューズを履いて路上見物していた私の目前を走りぬけた事や、柔道の本家日本の無差別級の神永選手がオランダのヘーシンク選手に抑え込まれた悔しいシーンも思い出される。
  • その後競技種目や参加国が増加したが、日本は経済が発展するにつれて競技種目の栄枯盛衰とともに金メダルの数は下降を続け、バブルの崩壊期には3個まで落ち込んだ。
  • しかし近年になって柔道、水泳、陸上、女子レスリングなどが活躍し、アテネでは16個と過去最多タイの金メダルを取り、北京でも9個、そして今回は柔道、体操、水泳、女子レスリング、女子サッカーなどで15個程度、世界の5位を目指している。
  • 「今の若い者は元気がない、子供の育て方が悪い、もっと苦労させろ」など社会の中心で働く人々や高齢者から若者への苦情は多いが、こうしたスポーツ選手ばかりでなく、芸術や科学、文化方面、そして企業の発展や新事業の展開に真剣に取り組んでいる若者もたくさんいる。中でも女性の活躍は著しく、その点決して日本の将来を悲観する必要はない。
  • 問題なのは、このまま放置すれば崩壊を早める経済状況や財政問題など、古くなった制度や構造物のリフォーム、そしてグローバル化が進展する世の中で、意識改革をしようとせず既得権益にしがみついた状況を打開しようとしない政治の現状である。
  • 約3年前に自民党政権が永年の古い体質から抜け出せずに崩壊し、民主党へ権力が移行した。国民はマニフェストに謳われている項目に新鮮さを感じ、諸手を挙げて投票した。
  • 始めの内は議員の意識が高く、国民もこれでやっと永年のトンネルから抜け出せると思ったが、鳩山総理の沖縄米軍基地県外移転問題からおかしくなり、菅総理の時に起こった東日本大震災の混乱が拍車をかけ、結局マニフェストに掲げた目玉項目の大半が未達成か少しの改善にとどまっている。
  • 野田内閣は一転してマニフェストには書いていない、もともと自民党の公約であった消費税増税を掲げ、政敵の小沢派を敵に回して野党の自民、公明党と手を結び、国民には財政の破たん状況を必死に説明して、理解を得るべく最大限の努力をしてきたのは御承知の通りである。
  • 私もこのレポートで、「子孫に美田を残すためにも消費税の増税は早急にやるべきだ」と書いてきたし、世論調査でも国民の半数以上は増税やむなしと再三報告されている。その意味では一応手順を踏んだ今回の賛否投票だが、民主党から棄権も含めて4人に1人の批判票があり、衆議院全体でも同じ結果となった。
  • しかし逆にいえば4人に3人は曲がりなりにも賛成なのだから、胸を張って参議院の審議に全力投球すればよいはずである。「私は財政破たんを回避するために消費税増税に政治生命をかける」と何度も野田総理は言ってきたのだから。
  • そうはいってもどうも釈然としないのは、これだけの増税をする事の筋道があまりに不透明だからだろう。「社会保障と税の一体改革」と言う大義名分で始めは少なからず納得していたが、だんだん主旨と内容がかけ離れ自民党の案と見紛うようになり、挙句にそのほとんどは継続審議、最後に増税法案だけを民、自、公3党の談合で成立を図るという、嘗て自分たちが野党の時に散々批判してきた自民党の派閥政治に輪をかけて、議会や少数政党を無視し民主政治に真っ向から竿差したやり方だからではないのか。
  • これに協力した自民、公明両党も同罪だ。東日本大震災のような非常時でも非協力的な態度を貫いた政党であるにも拘わらず、なぜ今回はあわてて増税だけに協力する必要があったのか。
  • 政治は権力闘争の場だから、小沢氏個人を悪者にして戦いに勝つ戦略が悪いとは言わないが、それなら嘗ての自民党の金権政治を継続するイメージの強い小沢氏の、帳簿改ざん疑惑と言う些細な問題ではなく、今回の建設業界献金疑惑事件をきちんと証拠を集めて徹底追及するのが筋ではないのか。
  • あの正義の検察特捜が総力を挙げて捜査しても起訴できず、その検察があろう事か偽調書を作成して信頼を地に落とした裁判で、いたずらに時間をかけて政治生命を削ぐというやり方は法治国家として内心忸怩たる思いがする。
  • 政治家はどこを向いて政治を行うべきなのか。近々総選挙をすれば、民自公とも選挙民から手痛いしっぺ返しを受けるのではないかと思われる。
  • 「消費税に反対した議員が地元に帰ると英雄扱い、賛成の議員は苦しい立場に立たされて困っている」と野田総理が盟友の議員にぼやいたそうだが、まさにこの事を予言するような言葉のように聞こえる