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<No.40>東日本大震災から1年が過ぎたが

  • 今年の冬は事更に寒かった。世界的な気候温暖化の影響で今年も暖冬かと思っていたが、とんでもなかった。おかげで梅や桜の開花が大幅に遅れているが、昭和の半ばまでは桜の満開は入学式の頃と相場が決まっていたので、我々世代には時代が元に戻っただけと言う感じはするが、そんな経験のない若い人には異常気象と思えるのかもしれない。
  • しかしこの程度の事は、去年3月11日に発生した東日本大震災の影響に比べれば何ほどの事でもあるまい。多くの人が親族や友人知人を失い、家屋を流され、施設は崩壊し、挙句の果てに福島第一原発の大事故で広い地域が放射線汚染の危険にさらされている。最近でも時々余震と思われる大きな地震が東日本を襲ってくる。まるで「地震の怖さを忘れるなよ」とでも言うように。
  • 現在日本列島で生活している人の多くは過去に阪神大震災をはじめ多くの地震を経験しているが、それが実際の地震発生時の避難や復興対策に中々生かされないのは残念な事だ。
  • 今回の想定外の大地震の発生で地震学者が深く反省し、メカニズムの究明と予知の確率アップに努力されているそうだが、大陸移動によるプレート境界型の大規模地震は日本に住む限り今後も避けて通れない事は十分理解できたし、東海、東南海、南海地域でいずれ大地震が起きる事も納得した。
  • だからと言ってすぐに逃げ出す事もあるまい。別に地震が起きなくても交通事故や伝染病、経済闘争、民族紛争、宗教や思想の違いによる戦争で何時命を落とすかもしれない要因はいたるところに存在しているからだ。
  • 東北の被災地の救済支援には国、自治体や多くのボランティアの人たちが携わっているが、精神的な面のケアでは医療介護関係者だけでなく、スポーツや芸術などの分野に携わる人たちも活躍されているようだ。
  • 震災によりすべてを失って呆然自失の人達に寄り添い、生きる勇気を与えるという事は並大抵の苦労ではない。震災後にスポーツ選手などからよく聞くのが「私が頑張る姿を見せて、被災者を少しでも勇気付けたい」と言うセリフだが、女子サッカーのワールドカップ優勝などがまさにそれで、観戦した被災者にどれほど大きな勇気を与えた事かと思う。
  • 同じ方面で宗教関係でも多くの人が活躍されているようだ。中でも仏教は人の死と直接対面するのが生業となっているので、葬式はお得意の分野だが、今回は遺族や親せきなどへの心使いは尋常ではあるまい。
  • 私も家内に先立たれた時の事、どんなに手を尽くしてももう助けられないと分かった段階でも、何とか生きてほしいと言う気持ちは変わらず、亡くなって6年経過した今でもなおその事実を受け入れる事が出来ないでいる。
  • こうした事は「時が解決する」=「忘れる」と言う事だろうが、本当はそんな事はない。
  • つらい思いを抱えながら前に進むしかないのだ。天寿を全うした死以外はどんな死に方でも本人は無念の思いがあり、遺族はつらい思いが残るはずだ。
  • 私の場合、何もする気になれなくて仕事もすべて止めた。仏教の本を読みあさったりしたが中でも「般若心経」の解説書を読んで「すべては無」と言う主旨が分かった時、「何と冷たい思想」だと感じて気持ちが一段と萎えた事を覚えている。
  • その後「四国八十八か所」を歩き遍路した後しばらくして、「死んだつもりで何かをやれば人生は又再生できる。捨てたものではない」と思いだした。「失われたものは元には戻らない。そんなこだわりは捨てなさい。そうすれば自ずと苦しみから解放される」これは仏教の教えの核心部分だが、つらい経験をした人でないと体全体では理解できないだろう。
  •  若い人や、年老いてもなお人生をぎらぎら謳歌している人には無縁の言葉だが、被災者や遺族をそんな気持ちにさせる事は宗教関係者の大事な使命ではないかと思う。
  • 一方物質的な支援を担当する国や自治体の体たらくはいかがなものか。復旧作業は少しずつ進展しているものの、瓦礫の大半は未だほとんど処理できず、新しい町作りは青写真すら描けていない。原発問題に至っては解決の糸口も見えないでいる。
  • 民主党が自民党に代わって本格政権を担当して長くはないが、次第に「マニフェスト」に謳われた事が絵に描いた餅である事が鮮明になりつつある。大震災が起こった事も不運と言えるかもしれないが、福島第一原発の大事故で放射線による汚染が世界最悪レベルである事が判明し、この対応にどたばたしているのも印象を一段と悪くしている。
  • 政権交代して3年目だが早くも3人目の総理大臣が生まれ、その内閣も消費税増税問題で早くも政治生命を賭けると言わざるを得ない状況だ。確かに日本の将来にとって大事なテーマだから意気込みはそうあってほしいが、こうした状況に追い込まれたのは嘗ての政権政党だった自民党の責任でもある。だから最近の日経の世論調査では「期待する政権」は民主党6% 自民党9% 民、自連立26% 新しい政党53%と2大政党への信頼は地に落ち、大阪維新の会など地方を基盤とする新政党への期待が爆発的に高くなっているのは驚きだ。
  • 民主党は大震災への対応についてもあまり評価されていないが、肝心の消費税増税について国民の3分の2近くは賛成しているのに、民主党の提案には反対が多いのは奇妙な話だ。それは今の日本の政治に国民が全く信頼していないからだろう。
  • 特別会計の埋蔵金の発掘で財政健全化を図る、政治主導で政治の在り方を有るべき形に変える、沖縄の米軍基地を県外に移転する、八場ダムの建設を中止するなど難題解決に大きな期待を集めたにも拘わらず、実際にはどれほどの成果を上げたのか。
  • 一方「消費税は増税しない」と謳っていたのにいつの間にか方針を変えて、「このままだと年金制度は崩壊する」とだまし打ちのように増税するというのでは国民は納得しない。
  • 震災直後の混乱の時に震災復興と年金制度の抜本改革を同時に実行するという事だったらまだ可能性はあったと思う。なぜなら年金改革には消費税増税が必要不可欠な事を国民は腹の底では認めているからだ。世の中が落ち着いた今ではそんな方法は通用しない。
  • 1990年代から続くバブルの崩壊の立て直しと、グローバル化による世界の変化に如何に対応するか、日本国憲法の改正問題も含めて堂々論陣を張り、国民に日本の将来像をわかりやすく説明すれば、国民は誰しも増税に真剣に耳を傾けると思うのだが。