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<No.37>なでしこジャパン 女子Wカップ優勝おめでとう

  • 7月18日早朝日本は「なでしこジャパン」の女子Wカップ優勝のニュースで湧きかえった。世界一の強豪アメリカを破っての勝利は東関東大震災に打ちのめされた日本人に大きな勇気と希望の灯をともしてくれたようである。 
  • 世界の強豪16チームがドイツに集結して約1カ月間の戦いを繰り広げた。正直言って1次リーグが始まった頃はそれほど強い関心はなかったが、ニュージーランド、メキシコを連破して早々に決勝リーグ進出を決めた頃から関心を持ち始めた。男子と違ってスピードやパワーには欠けるが粘り強さ優雅さにおいてははるかに勝っているようだ。これは他の男女共通の競技についてもいえる。特になでしこにはその感じが強い。
  • さてイングランドに負けて準々決勝で世界2位、Wカップ2連覇の地元ドイツとの対戦が決まった時には、「これまでか」と言う予想が圧倒的だったが、粘りに粘って延長戦で決勝ゴールを決めた時は、日本人はもとより地元ドイツ、いや世界中がびっくりした事だろう。
  • それでも準決勝の相手が北欧のスエーデンで身長差が10センチもあり、過去に何度も優勝にからんでおり、今年は親善試合で5分の実績とはいえやはり勝てる気はしなかった。ところがこれまたリードを許しながら後半大逆転3-1で勝ってしまった。日本人サポーターのハラハラドキドキをよそに、選手たちは必ず勝つという強い信念を持っていたので、リードされても心配はしていなかったという。大したものだ。
  • これで念願のメダル、しかも銀または金と言う予想外の成果が確定した。決勝戦は世界1の強豪アメリカ。今まで24回戦って3引き分け21敗と1度も勝った事がない相手。直前の親善試合でも2連敗。競技人口はアメリカが女子で最も人気のスポーツで200万人とも。日本は中学生になると男女が別々の競技となるので練習施設もままならない状況でわずか4万人ほど。どうみても日本に勝ち目はないと世界中の人々が予想していた。日本チームと日本人サポーター及びにわかテレビ観戦者を除いて。
  • 予想通り前半からアメリカが猛攻、日本は守備一辺倒。アメリカに何度も得点機が有ったが奇跡的に凌ぎ切った。これでひょっとしたらと思い始めた人もいただろうが、後半やはりアメリカが一瞬の守りの隙をついて日本ゴールを直撃した。しかし日本も残り少ない時間にアメリカゴール前のこぼれ球を拾ってねじ込み同点に。「やった!」という感じだ。
  • 延長戦になったが、ここでも前半アメリカがコーナーキックからワンバック選手の見事なヘディングシュートが決まり、万事窮すと日本人のだれもが思った事だろう。しかし奇跡は再び起こった。終了3分前に宮間選手のコーナーキックを沢選手が足の外側に当てて鮮やかなボレーシュートを決め再び同点。直後のアメリカの速攻をプロフェッショナルと
  • 言われるファールで凌ぎ切ったなでしこの粘りとチームワークには、しびれるものを通り越した感動を覚えた。決着をつけるPK戦前の両チームの表情は好対照で、アメリカは硬く強ばり一方の日本はにこやかに談笑。最初PKの失敗成功で勝負はほぼ決まったも同然、特に日本のキーパーの足先による執念のクリアーにはびっくりした。そして4人目を終わって日本は強豪アメリカに勝った。大番狂わせと言ったらなでしこに失礼かもしれないが。
  • 戦いの後の表彰式も素晴らしかった。優勝トロフィーを高々と掲げた「なでしこジャパン」の喜びに満ちたパフォーマンスは多くの日本人に大きな喜びと希望を与えた事だろう。
  • 沢選手の得点王、MVP はだれもが納得する表彰だろう。しかし佐々木監督を中心に経済的にも厳しい環境の中で歯を食いしばって頑張ってきた先輩、控え選手、スタッフ、サポーターも含めたチームワークの熟成、あきらめない気持ち、そして大震災にあって苦しんでいる人々に少しでも勇気と希望を与えたいというひたむきな心がこの偉大な勝利をもたらしたに違いない。
  • 優勝決定で号外が発行された。にわかサポーターの私も47年前の東京オリンピックで鬼の大松監督率いる「東洋の魔女」が女子バレーで優勝した時以来の熱い感動を覚えた。
  • ところでこの優勝で「なでしこジャパン」のメンバーの環境は様変わりするだろう。出発時は中部空港から見送りもほとんどなくひっそり発ったそうだが、帰国時は記者団を含め700人近い人が歓迎の出迎えに成田空港まで来たそうだ。
  • 国内でも多くの表彰があり、スポンサーもたくさんついて待遇は良くなるだろうし、マスコミへの出番も増えるだろう。しかし大騒ぎし過ぎると来年に迫ったロンドンオリンピックの出場権を獲得する9月のアジア予選突破には大きな障害になる。周りはせっかく開いた大輪の花を更に大きく育て、また裾野が広がるように協力してほしい。
  • 幸いメンバーの発言や態度を見るかぎりそんなに浮ついた処は見られない。特に宮間選手が悩んでいる時に沢選手に相談すると「苦しい時は私の背中を見なさい」と言って励ましてくれたという。宮間選手もそれを忠実に実行して今やなでしこの次世代を引っ張る中心選手に成長している。
  • 翻って現在の日本の政治家やトップ経営者その他の要人の中で沢選手のような発言をし、後輩達を引っ張っていける人物がどれほどいるのかはなはだ疑問を感じる。やはりこれからの日本はしなやかに粘り強い女性にお任せするしかないのだろうか。
  • お先にWカップを制した「なでしこジャパン」にあおられる「ザックジャパン」の選手だけでなく、これを機会にあらゆる分野の男性のトップは、女性の能力の優秀さを再認識し、活躍の場を広げるための制度を整え機会を与えなければ、将来の日本は先進諸国の一員からますます落ちこぼれていく事になるだろう。