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<No.36>東日本大震災から100日目

  • 平成23年3月11日に東北地方太平洋沖で発生したマグニチュード9.0という大地震と大津波が東北3県を中心に甚大な災害をもたらした事は記憶に生々しい。
  • あの日から100日が経過し被災地も少しずつ復興している様子がメディアを通じて流れて来るようになったが、何といっても10メートルを超える大津波の脅威、震度7と言う最大の揺れの恐怖はこれからも忘れようがないだろう。それによる被害は、死者行方不明者が25000人、罹災者数50万人、全壊建物は12万戸、道路や鉄道の損壊など多数に及び、特に世界の3大漁場と言われるこの地方の水産物関係の被害や、地震で地盤沈下した土地の塩水による農地や農産物の直接被害が2兆円に及ぶなど、インフラや建物の復旧だけで16.9兆円にも達すると見込まれている。
  • これだけで阪神大震災を3~5倍も上回る規模だが、更に東京電力福島第一原発の地震と津波による大事故は、現場の人々の懸命の努力にもかかわらず、いまだ終息の見込みが立たないありさまで、国内のみならず世界中に原発の恐怖を改めて発信する事になった。
  • これまでにも多くの日本人に加え海外の人々も、遺体の収容や情報の発信、瓦礫の片付けなど直接救援活動に参加し多くの成果を上げてきたし、義捐金も数千億円の規模に達している。それだけ世界中の人々の注目を引く大災害なのである。
  • 余震の数は次第に減少して人心も安定してきたようだが、これからが本当の意味での復興が始まるのだろう。大震災直後の恐怖や悲しみ苦しみから少しずつ立ち直り、将来に向かって自らを奮い立たせている被災者も少なくない。
  • こうした状況を素早く汲み取り、将来の復興計画の青写真を作りそれを具体化していく事こそ政治のなすべき役割であろう。
  • 思えば地震が発生する直前にも菅政権が行き詰って、「又首相交代か」などと囁やかれていたが、あの未曾有の大震災の発生で国家国民が一致結束して震災処理と復興にあたるとともに、更にこれを契機にバブル崩壊後の失われた20年を挽回するチャンスが到来したと思ったのは私ばかりではない。多くの政治家、指導者、国民の間にも「災い転じて福となす」という気概がだんだん高まってきていた。
  • それにしてはこのところの菅首相の解任騒動は、国民としては納得がいかない事はなはだしい。そもそもこの危急存亡の時期に対策に東奔西走している首相の首を挿げ替えて何の意味があるのか。野党がそれを望むのなら解散を求めるしかなかろうに、それは反対で与党の中に新しい首相を期待するなどまったく意味がわからない。与党の中にも菅内閣に非協力的で政策が何も纏まらない状況にある。
  • 政治は権力闘争そのものといわれるが、民主主義の原点である「決定は多数決だが少数意見を尊重する」という言葉が好き勝手に解釈されて政治がもてあそばれている感じだ。政治は国家国民のためにあるのであって、自分たち仲間内の利益のためにあるのではない。
  • かつてロッキード事件で田中内閣が倒れ、クリーンなイメージの三木内閣が誕生したが、少数派閥の悲哀で思った政策が推進できず、ついには彼を選んだ自民党議員の中からも
  • 蛇蠍の如く嫌われたが、今の菅首相はその時の三木首相とよく似ている。菅首相の前任者4人はいずれも1年ほどで繰り言を述べて辞任されたが、彼らに比べれば菅氏の方がよっぽど腹は据わっているようだ。こうなったらウソツキと言われようと厚顔無恥と言われようと、公約通り原発事故の終息、震災復興、クリーンエネルギーの開発など国家の当面の重要な施策に一定の目途がつくまで死ぬ気で頑張ってほしい。
  • ところで先に「復興基本法」が成立し、また専門家で検討を進めている「震災復興構想会議」で現地の意向を優先的に組み込んだ第1次提言が政府に提出され、震災復興の段取りは次第に固まりつつあるが、財源を基幹税増税に求める事に多方面特に政治家から反対が声高に叫ばれているようだ。
  • 「こんな時期に増税とは何事か」という話だが、大震災の20年も前から平均して毎年20~30兆円の国債が増え続け、いまや900兆円にも達している。これは死者や建物などの被害はないものの、毎年東日本大震災が発生しその財源手当を借金で補っているのと同じ事だ。以前にも書いたように国民の金融総資産は1500兆円あるが、そのうちの半分以上はすでに国が勝手に浪費しているのである。そしてこのままの状態で赤字国債を発行し続けるということは、自分たちの子供や孫の世代にその負担を背負わせる事を意味している。
  • 日本には原油や天然ガスの豊富な油田はないし、金やダイヤモンド、レアアースの鉱脈もない。農林水産業も衰えてしまった。残るのはハイレベルな産業の知識と技術だけだがこれも政治の無策でだんだん力が落ちてきている。
  • 世界中から国内に企業を呼び込み育成し、そうした中から雇用を拡大する事以外に日本を復活させる道はない。お金をばらまくことで人気取りしていては嘗ての共産主義国のように消滅の憂き目にあう。待っているのは終戦直後と同じハイパーインフレだけだ。
  • 今回の大震災で国民は毎日の生活基盤が如何に不安定なものかということを認識したと思うが、今こそ国家の将来のあるべき姿を議論し構築し、その実現に向かって諸施策を実施する中で、働く世代や企業に過大な負担をかけずに、世代に公平な負担を求める消費増税だけでなく、裕福な金融資産に対する金融税などの新設も検討すべき時期にきている。
  • 何時までも戦後の繁栄を築いた成功体験に酔いしれていては、若い世代の目を摘み、ひいては日本を塗炭の苦しみに陥れる事になる。