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<No.35>東日本大震災に思う

  • 平成23年3月11日は日本人にとって忘れようとしても忘れられない日となった。
  • 午後2時46分に発生した大地震の、揺れの大きさと時間の長さは嘗て私も経験した事がなかった。一瞬、東海大地震が発生したのかと思い、これは大変な事になったと感じた。その後、場所は三陸沖から福島県沖まで500キロメートルにわたるプレート境界が震源だと判明したが、太平洋側の東北3県の海沿いの町は地震による大津波で壊滅状態となり、いまだに死者や行方不明の人数も把握できない状況にあり、周辺の地域も普通なら大地震と言われる規模の死傷者を出す大惨事となった。家屋や公共施設、道路、橋の倒壊、堤防の決壊、がけ崩れや田畑の冠水、更に福島第一原発の罹災による大事故などの二次災害も含め、その経済的損失はいまだ把握できないほどで、膨大な金額になるだろう。地球規模で見ても日本列島が5メートル近く動いたとか、地震波が地球を5周したとか、三陸地方が広範囲にわたり75センチも地盤沈下し、逆に海が浅くなったなど今まで聞いた事のない地震による新事実が次々と明らかになってきた。空恐ろしい事だ。全く他人事ではない。
  • 16年前の阪神淡路大震災の時は直下型の地震で建物の多くがぺしゃんこになり6400人もの人々が犠牲になった。近年ではスマトラ沖の大津波で22万人が大波に呑み込まれて犠牲になった。ハイチでは直下型地震で23万人と言われる史上最大規模の犠牲者が出た。
  • 今回はマグニチュード9.0 震度7と日本の地震観測史上最大、世界でも4番目に相当する規模だという。しかし数字は地震の恐ろしさを表すだけで被害者にとっては何の慰めにもならない。
  • 昔はよく「災害は忘れたころにやって来る」と言われていたが、今は地震大国の日本でも特に太平洋側では東海、東南海、南海の広範囲にわたりプレート境界地震の発生が予測されているので、近年その発生の時期や被害の予測、避難訓練と対策がさまざまな形で検討実施されているが、今回のケースを見てもなかなか思い通りには行かないものだ。
  • 地震発生後30分以内に、見たこともない大津波が頑丈な防波堤を軽々超えて、町を一気に飲み尽くし、命を奪い建物を壊し田畑を塩水で覆い、返す引き潮でそれらを海にさらっていく情景がテレビで繰り返し放映されていたが、まるでSF映画でも見ているような錯覚に捕らわれるくらい信じがたい光景だった。
  • 実際には大津波の被害だけでなく、震度7や6強の大揺れで家屋の倒壊やがけ崩れの下敷きになっている人々も相当数おられる事だろう。そして今回の地震で世界に強い恐怖を与えたのが福島第一号原発の破壊による放射能漏れの懸念であろう。
  • 震災から10日を過ぎ、多くの人の献身的な努力で遺体の収容確認、生活物資の輸送、ユーティリティーや情報網の回復が少しずつ進んできたが、被災者にとってはこれから長く厳しい復興への茨の道が続くことだろう。その精神的経済的負担は測り知れないものがある。
  • 幸い多くの日本人ばかりでなく世界中の国々から暖かい支援の手が差し伸べられており、ありがたい話だが、我々のように大災害を免れた人も、こうした被害者の人たちに何ができるのか、できることから手を差し伸べる事が大事だろう。
  • いたずらに買いだめに走ったり、政治家や国の地震対策の上げ足を取るような批判をするのではなく、国家の非常時に国民が一丸となって協力を惜しまない姿勢と行動が強く望まれている。日本人全体の行き様が試されている。まだ余震は続いており大震災は継続しているのだ。(以上は 3月22日 記す)
  • 更に1週間が過ぎた。大きな津波の被害を受けた地域でも亡くなった方の遺体の収容と確認作業が進められているが、津波の被害地域が広範囲にわたる南三陸町、大槌町、石巻市などでは依然被害の実態すら把握できていない。
  • 死者、行方不明者の数は警察が確認しているだけですでに約3万人を数えるが、まだ実態が不明の人々を含めると、おそらく5万人以上の人が犠牲になったのではないかと思われる。家屋や公共施設、工場の設備、船舶や車の被害、瓦礫の処理などその直接被害額は16~25兆円と試算されている。いずれも阪神淡路の時をはるかに上回っている。
  • 幸い政府関係者や多くの人々の努力で被災者の救出収容、食事や医療の提供、瓦礫の除去、道路や橋などの応急対策による物流システム、ユーティリティーの回復も徐々に進展して一息ついたようだが、まだ大きな余震は頻発しており、震源から遠いところにいる私たちも緊張状態が継続している。
  • さらに福島第1号原発の事故が世界的に大きな事件となって報道されている。東日本がまるで危険な放射能で覆い尽くされたかのように、外国人は日本から集団で逃げ出したり、関西方面に場所を移したりしている。
  • 国内でも地震発生の当初は牛乳、卵、米、納豆、加工食品などの買占めがすさまじかったようだが、こちらはやや落ち着いてきたのに、今度は福島原発からのヨウ素セシウムなどの放射能漏れで、水道水の放射能測定値が基準値を少し超えたとの報道で水の買占めが始まった。
  • 原発から30km以内に住む人は、万が一の事を考え圏外への避難を指示され大変お気の毒ではあるが、その地域や県全体の野菜や牛乳、飲み物まで出荷制限を受けたり、買い控えによる値下げを余儀なくされる風評被害などあってはならない事だ。
  • インターネットやテレビでは福島原発の状況が毎日詳細に報道されており、それに関するコメントも色々行われているが、これに関して多くの専門家は、この程度なら短期間ではほとんど問題ないと説明しているのだから、現地から離れている人はもっと冷静に行動すべきだろう。外国人も有名キャスターの針小膨大な現地報道が、在住の外国人にこのような行動をとらせているようだがいかがなものか。
  • 世界中が福島原発の事故をきっかけに原子力発電計画を見直す動きが出てきたようだが、それは当然のことだ。しかし今後は原発の設置基準を常に震度7を前提に建設するのならコストは膨大なものになろう。
  • しかし、だからと言って火力発電所を拡大するのも地球温暖化防止に逆行するし、太陽光発電などは開発にまだ時間と資金がかかる。要するにエネルギーが足りないなら消費を制限するしかない。とりあえず今年の夏は冷房温度を大幅に高くすることだ。
  • そんな議論より今は被災地の遺族や、家屋とか生活の手段を失った人たちへの援助が第一だ。被災の当初は世界中からボランティアや寄付金が集まり、復興への道を進み始めているが、今回は3月や3年で片付く災害ではない。
  • 「阪神大震災の時には数カ月後に東京で忌まわしい地下鉄サリン事件が起こり、世界の耳目はそちらに移ってしまい、大地震のニュースは世間から忘れ去られてしまった。それがつらかった」と被災者は訴える。今回はそれを遥かに上回る規模であり、この後東海、東南海、南海大地震の発生も科学的根拠を以って予測されている。他人事ではなかろう。
  • これを契機に過去20年間の低迷を打破し新しい日本の形を築く事が出来なければ、大震災の教訓は生かされた事にならない。
  • 日本はこの地震で経済や精神の構造全体が壊れてしまうほど脆くはない。政治は日本復興のために一丸となって取り組む時であり、国民も消費税の増税などに協力して痛みを分かち合う事が必要ではないか。それは自分たちの築いた社会を若い人が引き継ぐための負担を減らす事にもなるのだから。
  • 次回のメッセージを書く3か月後に、この大地震の状況はどうなっているだろうか。(以上は 3月29日 記す)