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<No.30>新しい年に思うこと

  • 毎年、年の瀬を迎えると色々その年の反省や評価をし、そして新年の予測、抱負、計画などが語られる。08年は世界的な金融危機による80年ぶりの世界大恐慌の到来で、国家も企業も個人もお先真っ暗な状況だったように思うが、この1年はグローバルに危機対応が進んでやっと一息つけたという処だろう。
  • 年末恒例の京都清水寺の今年の世相を反映した1文字は「新」と言うことだったが、この文字から連想される「新鮮さ」は余り感じられないものの、世界的にも日本国内でも新しくなった事はたくさんある。
  • 20年前に東西冷戦が終わり、資本主義陣営のアメリカが世界で圧倒的な覇権を握る時代が続くと思ったが、21世紀になって戦争の継続や、浪費癖の大量消費さらに金融危機などで見る見る国力を弱めてきた。一方それと対照的に、BRICS諸国をはじめ東南アジアや東ヨーロッパ、そして中東、アフリカ、中南米などの原料保有国など低開発国と言われてきた国々が軒並み経済力をつけてきて、もう西側先進国(旧G7)では何も決められず、今やG20の時代へと様変わりしている。特に人口13億人を抱える中国は、政治体制は共産主義ながら経済を資本主義化して以来、東シナ海沿岸を中心に経済水準がどんどん上がり、GDPは恐らく2010年には日本を逆転するのが確実となった。
  • 1980年代、日本は経済ではアメリカに次ぐ世界のNO2ともてはやされ、当時のEU6カ国合計と同じ規模を誇っていた。ましてやBRICSや東南アジアその他の低開発国は競争の相手にもしていなかった。
  • しかしバブルがはじけた90年代から今日までの所謂「失われた20年」にわが国の国際的な経済力、例えば世界のGDP 寄与率はピークの17%から08年には8%へ、1人当りのそれは2000年に先進30カ国で1位だったものが、今では19位へと凋落の一途をたどっている。このまま行けば10年も経たないうちに経済も世界の普通の国に成り下がってしまうことだろう。ああ悲しいかな!
  • 2000年代の初めに小泉内閣が誕生し、既成の政治体制や経済秩序をぶち壊し、新しい時代の枠組みをつくる「構造改革」路線を推進して将来に明るい展望が開けてきたように見えたが、首相が代って以降なし崩しに元の状態に戻り、結局無駄な10年を過ごしてしまった。
  • 昨年9月の総選挙で自民党は大敗したが、驕れるものは久しからずの典型だろう。しかも現職議員の多くは大臣経験者で既に賞味期限の過ぎた人が多く、少数派の若手にもそれを乗り越えようとする気迫が伝わって来ないのはどうした事だろう。
  • 一方、民主党に政権が移って政治の手法は大変新鮮になった。「脱官僚」の旗印の下一所懸命勉強し努力しているのは良いことだ。今のところ成果はそれほどではないがまだ3ヶ月では無理もないだろう。「やれ ばら撒き政治だ、将来展望がない、鳩山首相は決断力に乏しい、小沢幹事長のいいなりだ」とか批判するのは結構だが、国民の圧倒的多数で選ばれた政権がマニフェストの戦略に基づき、その実現に邁進する中で試行錯誤を繰り返しながら努力していることは評価しなければならないだろう。
  • しかし、この政権の本質は、スローガンの「国民の生活が第一」にも謳われているように共産主義的で、大きな政府を前提にしている。当面、世界的な経済危機からの脱出のためには止むを得ないが、経済成長なき処には福祉の充実もありえないわけだから、国内企業が世界に負けない競争力を持ち、成長する基盤を整える視点が無くては政権の長続きはしないだろう。
  • 更に日本を取り巻く世界情勢が大きく変化している時、対アメリカ、中国、ロシアなどの安全保障の抜本的な見直しも必要だろう。「平和!平和!」と唱えていれば世界に平和が訪れるものではない。戦後の日本はアメリカの「核の傘」の下で平和を享受し経済の繁栄を謳歌することができたが、アメリカの力が低下し中国や他の発展途上国が伸びてきた今日、わが国の安全保証を将来どう確保するのか真剣に議論すべき時だろう。
  • 世界の歴史は様々の原因による戦争の繰り返しであり、現在でも世界の多くの地域で紛争が続いている。わが国でも北朝鮮の核装備問題などすぐ傍に紛争の火種を抱えている。もしアメリカが「もう他国のために自分の血を流したくない」と言う考えに変わったら(しかもそうなりつつあるが)、わが国は自らの安全保障を自力で達成しなければならない。
  • 世界で唯一の被爆国の日本が世界に核廃絶を発信することは全く正論だが、相手は自分の国益に基づいて動くものだ。世界は力の強いものの意志がまかり通る現実を直視しなければならない。
  • 世の中が大きく動く時は大きな痛みが必ず伴うものだ。それを怖がっていては何もできはしない。とどの詰まりは「ゆで蛙現象」とか「ありとキリギリス」の行く末を甘受することになる。そんな状態にはなって欲しくない。