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<No.24>オリンピックは平和の祭典

  • 4年に1度のスポーツの祭典、オリンピック北京大会がいよいよ8月8日から始まる。
  • 20年前の天安門事件以来、共産主義国家体制を実質的に放棄し資本主義体制に転換した中国は、それまでの労働の基本理念であった「与えられたノルマを確実に達成すること」とするものから「ネズミを取る猫は白色でも黒色でもよい猫」と言う分かりやすい言葉で国民の意識を徹底改革し、国を挙げて利潤の追求に励み、今や新興諸国の中でも最大の力をつけてきている。
  • 当時は経済規模で、日本の10分の1にも満たず、1人当りの国民所得では100分の1くらいに過ぎなかったものが、今ではGDPでは2分の1くらいの規模になり、1人当りでも日本人の10%以上をかせぎ、今後10年も経たないうちにGDPでは日本を逆転することが明らかになって来た。
  • その中国が民主主義の大国として世界に認知されるために、国家の威信を賭けて開催するオリンピックだから、力の入れ方も先進諸国の諸都市で開催されてきた大会とは自ずと異なるだろう。
  • この春にチベット独立問題が起こった時、欧米先進諸国がこぞって中国を非難したが、中国からすれば、それらの国々の多くが19~20世紀にかけて中国を植民地化し、中国人を食い物にした事実がある故に、この時期にチベットという内政問題に干渉された事は憤懣やるかたない思いだったであろう。ましてや国家の威信を賭けたオリンピックをボイコットされるとなれば、今までの苦労も水泡に帰すことになる。事実聖火リレーでは多くの国で嫌がらせ行為が頻発し、とても平和の祭典のプロローグどころではなかった。
  • ところが、5月12日に四川省でマグニチュード8の大地震が発生し、死者行方不明者が9万人、罹災者の数にいたっては4600万人と、日本人の3人に1人くらいが被害を受けていることになる。山崩れや建物、道路の損壊など途方もない数にのぼり、被害総額はいまだに計算できない状況にあり、復旧の目途も立っていない。
  • 95年に起きた阪神大震災に比べ地震のエネルギーは30倍以上、死者行方不明者は10倍以上、罹災者は100倍くらいの数に上るだろう。日本で想定するなら、関東及び東海メガロポリス大地震ということになるのだろうか?なんとも痛ましいことである。
  • 地震学の観点から見ると、インド亜大陸がユーラシア大陸にぶつかった時からヒマラヤ山脈が形成され始め、チベット高原はその影響を受けて東側に押し出されている。今回大地震が゙起こった場所は四川盆地とチベット高原との境界で、大きな活断層ができているので、今までに大地震が何度も起こっており今後も頻発する可能性が高いと言う。
  • 日本も太平洋プレートなど四つのプレートの境界に沿った位置に存在するので全く他人事ではないが、中国が共産主義華やかな頃はこうした情報は殆ど流れて来なかったので、地震は日本だけの専売特許であり、地震関連の情報はわが国が圧倒的に豊富だと思っていたが、どうもそうではないらしい。
  • しかしこれを契機にまずは罹災者の救援活動に国際的な援助の手を差し伸べて、1日も早い復旧を図ることが第一であり、中国も素直に他国の援助に感謝し門戸を開くことだ。
  • お隣のミャンマーでは、四川大地震の少し前にサイクロンの襲来で20万人以上の死者行方不明者など大きな被害が出ているのに、軍事政権が他国の救援の手を頑強に拒んだために被害が拡大し、実態も把握できていない。政治は誰のためにあるのか?愚かとしか言いようがない。
  • オリンピックは古代ギリシャで発祥し1000年間も継続したが、「平和の祭典」として世界中の国が認めていたので大会期間中は全ての戦争を中断し、全ての競技者がスポーツの戦いのために体力、気力、技術の全てを出し尽くしたと言う歴史がある。
  • ピエール.ド.クーベルタンは、古代オリンピックのこの理想を旗印に100余年前に近代オリンピックを創始したが、その後アマチュアリズムの変質、商業化の波、ドーピング問題など様々の紆余曲折を経て、現代のオリンピックはスポーツの巨大なイベントと化した。
  • 「平和の祭典」とは名ばかりで、わざわざこの機会を狙ってテロを実行する輩も登場するようになった。しかし逆の立場から見れば欧米の超大国がこの何百年間、キリスト教や民主主義の美名の下に自国の権益拡大のために戦争を起し他国を侵略してきたのだから、その反抗の手段としてテロが頻発するのは歴史の必然ともいえるが、こうした永年の怨念が如実にある以上、解決には時間をかけて和解の道を探る他はないだろう。
  • そうは言ってもせっかく4年に1度のスポーツの祭典なのだから、北京では競技者が個人と国家の栄光のために全力を発揮する瞬間を、世界中の人々が何の心配も無く熱中できる、歴史に残るようなオリンピックになって欲しいものだ。